理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-C-0226
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当院でのTHA患者における退院時の爪切り動作の自立割合について
平瀬 智大西 伸悟西山 隆之
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抄録

【はじめに,目的】人工股関節全置換術(以下THA)は,変形性股関節症患者にとって除痛効果が高く,非常に有効な治療法である。そのリハビリテーションにおいては,関節可動域制限がある事が多く,脱臼のリスクも存在するため,ADL指導が非常に重要である。特に爪切り動作は要求される可動域が大きいことによる動作獲得の困難さに加え,有効な自助具もなく,ADLにおいて大きな課題の一つである。今回,当院において積極的に爪切り動作獲得に向けて介入を実施し,その退院時の爪切り動作の自立割合を,後方視的に調査したので報告する。【方法】対象者は,平成26年4月末から9月中旬までの期間において当院でTHAを行った患者24名のうち,中枢疾患・他の運動器疾患を有しない者22名とした。診療録からの調査項目としては年齢・性別・術後在院日数・退院時股関節可動域(屈曲,外転,外旋),ADL動作(靴下着脱,1足1段での階段昇降,爪切り動作の可否)とした。股関節可動域は術前と退院時における差を,EZR Ver.1.25を用い,Wilcoxon符号順位和検定にて比較し,有意水準を5%とした。ADL動作は自立した割合をパーセンテージにて算出した。【結果】対象者の属性は,男性5名,女性17名,年齢は62.3±14.1歳であり,平均術後在院日数は32.3±10.4日であった。手術は前側方アプローチにより実施,人工股関節の設置位置は正常,理学療法経過は術後翌日より車椅子移乗を実施,全荷重で介入を行い,全症例が歩行獲得し退院した。ADLにおいては,靴下の着脱動作は20名が可能となり,自立割合は90.9%,階段昇降は1足1段にて18名が可能となり自立割合は81.8%であった。爪切り動作は膝を抱えるようにして股関節・膝関節を屈曲させて行う方法(単純屈曲法)により20名が可能であり,自立割合は90.9%であった。股関節可動域は術前・退院時共に測定していた15名を比較した。術前の股関節可動域は屈曲101.0±12.7°・外転34.0±10.7°・外旋32.3±12.0°に対し,術後の股関節可動域は,屈曲98.7±6.7°・外転39.3±1.7°・外旋28.3±9.6°で,いずれも有意差を認めなかった。入院中,退院後ともに脱臼・疼痛の増悪等の異常を生じた者はいなかった。爪切り動作の困難例の特徴は,創部治癒不良例1名,頻回脱臼に対する再置換術症例で,予防的に股関節外転装具を装着している1名であった。【考察】股関節の可動域は非常に様々なADL・IADLと関連している。多くのADLは4週間程度の入院中の介入により自立する事が多いが,爪切り動作を完遂するためには足趾の目視が必要となる分,より下肢・体幹に可動域が必要となり,課題となることが多い。下肢関節可動域制限の因子として,術後疼痛や,腫脹,大腿直筋・大腿筋膜張筋などの二関節筋を始めとする筋緊張の亢進などが挙げられる。これに対し,爪切り動作の獲得を目標とし,早期から下肢関節可動域訓練を注力的に実施していくことで,全例が股関節可動域は術前のレベルまで改善し,順調な経過を示す症例においては爪切り動作が自立可能となったと考えられる。本研究の限界として1点目に後方視的調査としての限界として,体幹や膝関節など他の関節の退院時評価がなく比較できなかったことや,各ADL動作獲得の日の詳細な特定ができなかった症例もおり,検討できなかった事。2点目に症例数の限界として,爪切り動作の不可能な症例が少なく,爪切り動作の獲得の可否における因子の検討が困難であったことが挙げられる。今後は評価指標・症例数を増やし,更なる検討をしていきたい。【理学療法学研究としての意義】早期から退院時のADL獲得を目的として理学療法介入を実施し,良好な結果を提示できたことは,今後のTHA術後の理学療法介入・目標設定の一助となると考えた。

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© 2015 日本理学療法士協会
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