理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-A-0227
会議情報

ポスター
脳卒中片麻痺患者の到達把持動作における肩甲骨・体幹機能の特徴
上肢治療用ロボットを用いて
涌野 広行山中 晶子松田 貴郁古場 友貴林 克樹小野山 薫坂井 伸朗村上 輝夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】近年,到達把持動作は上肢の運動だけでなく,肩甲骨,体幹,股関節を含めた協調運動として捉えることが重要であると考えられている。しかし,脳卒中片麻痺患者における到達把持動作時の上肢と肩甲骨,体幹,股関節運動との関連性について分析した研究は少ない。そこで,我々は九州大学と共同で開発をしている上肢治療用ロボット装具を用いた,健常人の到達把持動作の分析結果を基に,今回は脳卒中患者の到達把持動作時の肩甲骨,体幹,股関節運動を測定し,健常人と比較したので報告する。【方法】対象は,本研究への参加に同意した脳卒中患者と健常人,各1名とした。右被殻梗塞を呈した脳卒中患者は上肢到達把持動作と自立独歩を獲得した59歳女性で,発症から70日目と173日目に測定を実施した。測定時の上肢機能は1回目,上肢Fugl-Meyer scale(以下,上肢FMA)50点,簡易上肢機能検査(以下,STEF)87点,2回目,上肢FMA 63点,STEF98点であった。また,健常人は60歳女性を測定した。使用したロボットは,肩関節(屈曲・伸展),肩甲骨上方回旋,体幹(屈曲・伸展,回旋,側屈),股関節(屈曲・伸展)が可能な運動軸を有し,各運動軸にサーボモーター(Maxon社およびYasukawa社)と力センサー(共和)を設置し,上腕には電子式ゴニオメーター(Biometrics社)を取り付け,殿部・足底には床反力計(Nintendo社)を設置した。これらをコンピューター(Interface社)制御により被験者の動きに対し追従制御,重量免荷制御をおこない,到達把持動作時の各関節の運動角度を定量的に測定した。到達把持課題は4.5cmの立方体を,あらかじめセットした身体前方の平面パネル(大腿上面の高さ)上にランダムに33カ所提示し,到達把持動作を実施した。座標は両膝の中心から前方延長軸をY軸,Y軸と垂直に交わる左右空間をX軸とし,膝の5cm前方を中心点(X=0,Y=0)とした(右側,前方をプラス)。目標物の提示位置は-40cm≦X≦10cm,20cm≦Y≦30cmとした。運動開始姿勢は自然座位,左上肢下垂位とした。運動の開始は立方体に埋め込んだLEDライトの光刺激を合図とし,運動終了は加速度センサーにて記録した。目標物へ到達把持した際の各関節角度を抽出し比較した。また,各関節運動間の比較をピアソンの相関にて分析した。【結果】患者の到達把持動作は健常人と比較して,到達把持までの時間が長く,肩甲骨上方回旋が大きく(患者:34.9±3.7°,健常人:11.5±2.7°),体幹屈曲は小さい値を示した(患者:3.1±1.6°,健常人:6.0±5.5°)。また,左側の領域における到達把持では,体幹の左側屈が確認され,健常人と比較してわずかに小さく(患者:3.7±2.4°,健常人:4.0±2.5°),体幹の回旋は健常人よりも右回旋が大きかった(患者:9.8±4.2°,健常人:6.3±1.1°)。2回目の測定では,1回目と比較して体幹の右回旋が17.2±2.2°に増加,左側の領域への到達把持で肩関節屈曲は69.6±8.8°が80.7±13.4°と増加し,肩甲骨上方回旋が24.0±3.4°,股関節屈曲が29.2±4.4°と減少し健常人に近づいた。しかし,2回目の肩甲骨の上方回旋角度は健常人と比較して大きい値であった。また,患者の1回目の測定では肩関節運動と他の関節運動間に0.7以上の高い相関を示したが,2回目の計測では体幹の屈曲のみ相関係数-0.13と相関が認められず,健常人と同様の結果となった。【考察】今回,ロボット装具を用い,回復過程にある脳卒中患者の到達把持動作を測定した。脳卒中患者は回復初期では健常人と比較し到達把持時間が遅延し,肩関節,体幹,股関節運動の協調運動パターンが異なること,回復に伴い健常人に近づくことが確認できた。中でも回復初期では肩甲骨上方回旋,股関節屈曲運動が過剰に大きく,回復後期で軽減することが確認できた。これは代償運動の変化であると考えた。これらのことから到達把持動作における肩甲骨,体幹,股関節との協調した運動の特徴を捉えることができ,その重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は脳卒中患者の到達把持動作時の肩甲骨・体幹・股関節の協調した運動の重要性と臨床の治療の視点を指し示した。また,今後の上肢治療用ロボットの開発と臨床への応用につながる。その為,本研究を通して理学療法においても到達把持動作時の体幹運動制御の検証は新たな知見をもたらすと期待される。

著者関連情報
© 2015 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top