理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-C-1026
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内包後脚病変の臨床的検討
前脈絡叢動脈領域梗塞をとおして
渡辺 光司齋藤 頼亮渡部 瑛
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抄録

【はじめに,目的】内包後脚(以下PL)病変に関しては,まだ標準化された計測法があるとはいえず,個々のPL病変の比較が困難な状態である。今回,我々はFunctional MRIとDiffision tensor tractgraphyを用いてPL内の皮質脊髄路(以下CST)の局在部位を示した既報告をもとに,前脈絡動脈領域梗塞の臨床症状について比較検討したので報告する。【方法】MRI画像のモンロー孔レベルにおいてPL内の病変部位を計測,算出した。計測法は,まずレンズ核の最も内側の点をM点,最も後方の点をP点としてM点からP点の前後径MPの距離を計測した。また,M点から病変前縁Laまでの距離MLaと,M点から病変後縁Lpまでの距離MLpを計測した。そして病変前縁はMLa/MP比を算出してAnterior margin(%)(以下AM%),病変後縁はMLp/MP比を算出してPosterior margin(%)(以下PM%)として局在を示した(小数第3位以下切り捨て)。症例は,回復期病棟退院時の帰結を確認できた前脈絡叢動脈領域梗塞5症例とした。そのうち3症例がラクナ梗塞で,2症例がBranch Atheromatous Disease以下BAD)であった。それぞれ基本属性(年齢,性別)と,臨床症状を後方視的に調査した。臨床症状は,運動麻痺評価Brunnstrom recovery stage(以下BRS),感覚障害の有無,機能的帰結(上肢実用度,歩行到達度)を確認した。【結果】臨床症状として症例1は60歳台,男性,右片麻痺,BRS上肢II-手指II-下肢V,感覚障害なし,廃用手レベル,独歩レベル。症例2は60歳台,男性,右片麻痺,BRS上肢V-手指V-下肢III,感覚障害なし,実用手レベル,短下肢装具(以下AFO)装着T字杖歩行レベル。症例3は70歳台,男性,右片麻痺,BRS上肢V-手指V-下肢V,中等度の感覚障害あり,実用手レベル,T字杖歩行レベル。症例4は40歳台,男性,左片麻痺BRS上肢II-手指II-下肢V,感覚障害なし,廃用手レベル,独歩レベル。症例5は,90歳台,女性,左片麻痺BRS上肢II-手指II-下肢IV,感覚障害なし。廃用手レベル,AFO装着四点杖歩行レベル。病型と臨床症状の特徴から,症例1をラクナ梗塞/上肢麻痺優位型,症例2をラクナ梗塞/下肢麻痺優位型,症例3をラクナ梗塞/感覚障害優位型,症例4をBAD/上肢麻痺優位型,症例5をBAD/上下肢麻痺型とした。病変部位のAM%:PM%は,症例1は48.90%:83.70%,症例2は94.67%:101.33%,症例3は111.06%:133.18%,症例4は36.83%:84.20%,症例5は31.69%:96.42%であった。【考察】Kim YHらはPL内のCSTにおいて,特に上肢成分が通過していた位置は,AM%64.27%:PM%86.72%であったと報告している。症例1 ラクナ梗塞/上肢麻痺優位型では,病変部位は,48.90%:83.70%で既報告の範囲に大きくかかっており,臨床症状的にも上肢麻痺が重度であった。また,その後方へは超えておらず下肢成分の損傷は少ないと考えられたが,実際,下肢麻痺は免れていた。逆に,症例2 ラクナ梗塞/下肢麻痺優位型をみると,94.67%:101.30%と病変部位全体が既報告の範囲より後方に位置していたため,上肢成分より下肢成分の損傷が大きいと考えられたが,臨床症状ともほぼ一致していた。症例4 BAD/上肢麻痺優位型は,病変規模が大きいにも関わらず,下肢運動麻痺をほとんど免れていた。病変部位は36.83%:84.20%で,症例1と同様に既報告の範囲の後方へは超えていなかったのが下肢運動麻痺を免れた要因と考えられる。症例5 BAD/上下肢麻痺型は,31.69%:96.42%で既報告の範囲はもちろん,その後方へも大きく超える病変であったため,上下肢成分共に損傷を免れられないと考えられたが臨床症状に一致した。症例3 ラクナ梗塞/感覚障害優位型をみると111.06%,133.18%と,既報告の範囲や他4症例より大きく後方に位置していた。他4症例は,感覚障害を伴っていないことから,感覚上行路はLP内ではCSTの後方で強く独立して局在していることが伺われた。本研究はニューロイメージング手法を用いた既報告と臨床症状を比較検討するものだったが,一定の整合性が認められた。PL病変に関しても局在部位的な臨床検討が有用と感じられた。【理学療法学研究としての意義】PLはその近傍である視床,被殻が脳出血の頻発領域であるため,我々PTが最も遭遇する病変部位といえる。PLに対して病変部位の計測法や指標が標準化されることによって,リハビリテーションアウトカム設定に活用されることが望まれる。本研究はその足がかりとして意義があると思われる。

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© 2015 日本理学療法士協会
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