理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-A-1027
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左半側空間無視と注意障害を合併した8症例の回復過程の特徴
―神経心理学的検査および眼球運動と選択反応時間の左右分布の結果から―
今西 麻帆大坂 まどか高村 優作河島 則天森岡 周富永 孝紀
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抄録

【目的】半側空間無視(以下,USN)は注意障害など様々な症状を合併することから日常生活の阻害因子である。左USN改善における経過報告は多数されており,菅原ら(2009)は,左USNが改善した症例は,左USN群に比較して注意機能などの神経心理学的検査においても有意に改善していたことを報告した。しかし,左USNや注意障害が眼球運動や選択反応課題なども含めてどのような経過で改善しているのかは不明瞭であり,分析が必要と考えられる。本報告は,左USNと注意障害を合併した8症例に対して到達運動と眼球運動における視空間処理を経時的に分析し,回復過程の特徴と神経心理学的検査との関係について検討する。【方法】対象は,右大脳半球損傷により左USNと注意障害を呈した患者8例(左USN群)であった。8例の初期のBIT行動性無視検査日本語版(以下,BIT)の通常検査の点数は,71.3±44.17点(中央値67点)で,症例1から69点,40点,87点,48点,9点,122点,65点,130点であり,全症例がカットオフ以下であった。Trail Making Test A(TMT-A)は全症例が遂行困難であった。視空間処理の計測には,アイトラッカー内臓型タッチパネルPCを用いた選択反応課題を実施した。対象者はPC画面の正面に椅坐位をとり,ランダムな順序で点滅する35個(縦7列,横5行)のオブジェクトを示指にてタッチ操作(課題1)または注視(課題2)にて選択する課題を経時的に実施した。画面右側3列,左側3列のオブジェクトの点滅開始から選択までの反応時間の平均値を各々で求め,左右比を算出した。また,左USNと注意障害を認めなかった右大脳半球損傷患者9例(コントロール群)にも同様の検査を実施し,反応時間の左右比を左USN群と比較した。【結果】コントロール群の左右比は課題1で平均1.09,課題2で平均1.08であった。課題1(到達運動)では,症例1~5は初期には右側空間(Rt),左側空間(Lt)ともに反応時間の遅延を認めていたが,経過とともにRtの反応時間が短縮し,それと同時期または反応時間の短縮後にLt見落とし数の減少,Lt反応時間の短縮を認めた。最終評価ではBIT通常検査はカットオフ以上となったものの,左USNの程度を反映する反応時間の左右比は残存しており,特に症例5においては左右比2.8を示した。一方,症例6~8は初期からLtへの到達運動が可能であった。最終評価では症例6,8のBIT通常検査はカットオフ以上となり左右比も1.0~1.2を示した。症例7のBITはカットオフ以下,TMTも年齢平均以下であるものの,左右比は0.7を示した。課題2(眼球運動)は,個人間でのバラつきを認めたものの,全体的な傾向としては,経過に伴いRtの反応時間の短縮,Lt見落とし数の減少,Lt反応時間の短縮を認めた。最終評価では症例1,2,6,7,8は左右比が0.8~1.4であったのに対し,症例3~5は左右比が大きく,特に症例5においては3.48の左右比が認められた。課題1と課題2を比較すると全症例において課題1の方がより多くのLtのオブジェクトを選択可能であった。【考察】症例1~5の課題1の経過から,Rtの反応時間の短縮に伴いLtの拡大が認められた。Rtの反応時間の短縮は,TMT-Aの遂行時間及び課題全体の反応時間の平均値の改善と同様の経時変化を示した。よって,注意の持続や選択などの全般性注意障害の改善に伴い左USN症状が改善することが示唆された。課題1と課題2の選択数の解離に関しては,視覚刺激に対して到達運動に変換することがLtの拡大に寄与する可能性が考えられ,今後更なる検証が必要である。BITと選択反応時間の解離が大きかった症例5に関しては,机上検査や慣れた環境下では能動的探索が可能であり左USN症状は改善していたが,慣れない環境下や人とのすれ違いなど受動的な要素が含まれる場面になると,左USN症状が出現していた。そのため,机上検査や慣れた病棟生活では検出できない左USN症状が選択反応課題に反映されていたと考えられる。症例7に関しては,BITの文字抹消検査における減点が多く,Frontal Assessment Battery(FAB)による前頭葉機能評価が5点と点数が低かった。よって,本症例は受動的な選択反応課題は遂行できるが,能動的探索に負荷がかかると左USN症状が出現すると推察される。【理学療法学研究としての意義】左USN症例の眼球運動及び選択反応課題の特徴を経時的に捉え,回復過程の特徴や,注意障害との関連性を明確にすることは,左USN改善のための効果的なリハビリテーションを立案する上で有用な手がかりとなるものと考えられる。

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© 2015 日本理学療法士協会
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