理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-12-1
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口述演題
認知症を有する大腿骨近位部骨折症例の術後3日目における短期的歩行能力の予測
鈴木 康平松本 直也古内 碧中田 唯内田 賢一長澤 弘
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抄録

【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折の術後理学療法では歩行の再獲得が重要な目標となる。近年の急性期病院における入院期間短縮に伴い,患者の転帰先決定の為に早期より歩行能力の予測が必要となる。先行研究では歩行能力の予測因子として受傷時の年齢,認知症の有無,受傷前歩行能力が報告されている。しかし,認知症がある症例に対して歩行能力の予測を行った報告は見当たらない。そこで今回の研究の目的は認知症がある症例に対しても術後の運動機能を指標とし,退院時歩行能力の予測が可能になるか検討し,その予測式を算出することとした。【方法】対象はH26年2月から11月の間に観血的治療を施行した大腿骨近位部骨折患者で,理学療法を施行した症例303名中,受傷前に屋内杖歩行が自立していて,MMSE23点以下のもの51名(年齢85.0(80.0-91.0)歳,男性9名,女性42名)とした。術後荷重制限,重篤な合併症により理学療法の進行に支障をきたしたものは対象から除外した。診療録より対象の年齢,MMSE,在院日数,受傷前歩行能力と術後3日目のBarthel Index(B.I),基本動作能力(立ち上がり,移乗),フットレストへの足上げ(足上げ)が可能か,膝関節伸展筋力,最大一歩幅,下肢荷重量,疼痛,握力,歩行能力を後方視的に調査した。統計学的分析は対象を杖歩行が15m可能であった群(歩行可能群)と不可能であった群(歩行不可群)に分類し,χ2検定,Mann-WhitneyのU検定で各調査項目を比較,検討した。2群間の比較で有意差がでたものを独立変数,退院時に歩行が可能であったかを従属変数としたロジスティック回帰分析を行い,退院時に歩行可能であるかの確率を求める予測式を算出した。分析には変数増加法(尤度比)を用い,多重共線性に配慮して各調査項目間のSpearmanの順位相関係数を確認し,相関係数0.8以上の項目は片方を変数から除外した。統計解析にはIBM SPSS statistics 20を使用し,有意水準を5%未満とした。【結果】2群間を比較した結果,B.I(p<0.01),足上げ(p<0.05),両側膝関節伸展筋力(p<0.01),両側最大一歩幅(p<0.01)と患側下肢荷重量(p<0.01),握力(p<0.05),立ち上がり(p<0.01),移乗(p<0.05)に有意差を認めた。その他の項目では有意差は認められなかった。回帰分析の結果,B.I(p<0.01,オッズ比:1.098,95%信頼区間:1.025-1.177),患側最大一歩幅(p<0.01,オッズ比:1.191,95%信頼区間:1.062-1.335)が予測因子として抽出された。退院時に15mの杖歩行が可能かの予測式はmodel=-6.012+0.094×B.Iの得点+0.175×患側最大一歩幅となった。得られた予測式を今回の研究とは別の対象85名に当てはめ,その正確性を検証したところ,79.8%の精度であった。【結論】認知症を有する症例に対し,B.Iの得点と患側最大一歩幅を用いて退院時の杖歩行が可能であるかの予測が可能となることが明らかとなった。

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© 2016 日本理学療法士協会
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