理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-11-6
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口述演題
POEMS症候群を呈した一症例
笠原 龍一神保 良平渡邉 紗耶加神保 和美藤田 貴昭小野部 純山本 真代山本 優一甲斐 龍幸
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抄録

【はじめに】POEMS症候群は単クローン性の形質細胞増殖を背景に多発神経炎,臓器腫大,内分泌障害,M蛋白血症,皮膚症状を呈する難病である。多発性骨髄腫に準じた化学療法等が行われるが,標準治療は未だ確立していない。リハビリテーション(以下,リハ)は廃用症候群の予防に加え,末梢神経障害や歩行障害に対するアプローチが必要になる。しかし,POEMS症候群の臨床経過などを示した報告は非常に少ない。今回,演者らが経験したPOEMS症候群症例に対するリハについて経過も含めて報告する。【対象】POEMS症候群の67歳,男性。身長168cm,体重79kg。診断後,化学療法とリハが処方された。両下肢遠位の末梢神経障害が重度で,両側とも下垂足を呈しており,立位保持,歩行ともに不能であった。本人の希望により,1ヶ月間の入院加療後,外来での治療へ移行となった。【方法】入院中のリハは6回/週,20分~40分/回。退院後は外来リハを3日/週,40分/回実施した。リハ内容は両足関節を中心とした両下肢のROMex,筋力ex,歩行ex,マシントレーニングを主に実施した。特に末梢神経障害の影響の強い下腿筋の筋力低下を代償するための膝伸展筋力exと代償を用いた動作練習を実施した。定期評価は主に両下肢のROM-T,両下肢のMMT,感覚検査を行った。外来移行後はハンドヘルドダイナモメーターを用いた膝伸展筋力測定を追加し,詳細な筋力の変化を調べた。なお,リハを実施する際には血液データや副作用に留意して行った。【結果】初期評価時,両足関節背屈の他動ROMは5°であった。両下肢の筋力は足関節底背屈筋がMMT 0であり,それ以外は4レベルであり,下腿に高度の筋力低下が認められた。感覚は両足趾の表在・深部感覚はとも中等度鈍麻であり,両下腿にしびれがあった。歩行は困難であった。外来リハ初回時,膝伸展筋力は右12.5kgf,左14.7kgfであった。外来リハ介入開始2か月後,膝伸展筋力は右27.6kgf,左28.6kgfまで改善し,立位保持は膝軽度屈曲位であれば1分以上可能となり,自宅内はT-cane歩行可能となった。外来リハ開始3か月後,膝伸展筋力は右24.8kgf,左30.1kgfとなり,病院にもT-cane歩行で来院可能となった。外来リハ開始8か月後には膝伸展筋力は右38.5kgf,左35.7kgfまで改善し,感覚は表在・深部感覚は右が正常,左は軽度鈍麻となり,しびれは軽減した。ROMと足関節底背屈筋は変化しなかった。【結論】POEMS症候群に対しては能力障害へのアプローチを優先すべきと報告されている。今回演者らもトップダウンアプローチを行った結果,末梢神経障害による下腿筋の筋力低下はリハ後も改善しなかったが,膝伸展筋力の向上と代償動作の学習により症例は自宅内の生活が自立となった。POEMS症候群のリハ効果は化学療法の奏功に大きく左右される面も大きいものの,本症例を通して残存筋の筋力向上および能力低下の改善が十分に可能であることが示唆された。

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