主催: 日本理学療法士協会
【はじめに,目的】大腿骨頸部骨折や脊椎椎体骨折の発症は,患者に医学的処置のための安静を強いることとなる。それら安静期間によって生じる活動性の低下は,身体機能の低下を招き,退院後の生活機能にも影響を及ぼす事は言うまでもない。そのため,安静が解除された早期より,理学療法と併せて活動性を向上させうる策を講ずることが必要となる。近年,歩数計を用いた歩数を増やす介入により,地域在住高齢者の骨格筋量や運動機能が改善することが報告されている(Yamada, et al., 2015)。歩数計は使用方法が簡便であり,目標設定が行いやすいため,セルフトレーニングに用いるツールとして,入院患者に使用されることも多いであろう。しかし,歩数計を用いたセルフトレーニングが骨折後入院患者の運動機能に与える効果については十分に明らかにされていない。本研究の目的は,歩数計を用いたセルフトレーニングが腰椎椎体骨折患者の身体機能に与える効果を検証することである。【方法】対象は,転倒により腰椎椎体骨折(SQ法:グレード3)を受傷した81歳の女性である(身長133cm,体重35kg)。受傷前の日常生活動作は自立していた。当院入院時(受傷1日目),骨折部に中等度の疼痛を認めた。認知機能に問題は認めなかった。血液検査値は,アルブミン値3.8g/dl,C反応性蛋白値0.22mg/dlであった。受傷2日目から,40~60分の理学療法を週5~6回の頻度で実施した。受傷6日目でフレームコルセットを装着しての歩行開始となった。この時点で骨折部の疼痛は消失していた。歩数計を用いたセルフトレーニングは歩行器歩行自立となった受傷14日目より開始した。歩数計は,就寝時以外は常時着用させ,1日の歩数をチェックシートに記録させた。セルフトレーニング開始1週目は歩数の調査期間とした。この調査期間における歩数より10%増やした歩数を2週目の目標歩数とした。3週目以降の目標歩数も,前週の歩数より10%増やした歩数とした。また,疲労や疼痛が出現しない場合に限り,目標以上の歩数に増大させることを許可した。歩数計を用いたセルフトレーニング開始前と6週目終了時点で,左右下肢筋量,等尺性膝関節伸展筋力,最大歩行速度,5回立ち座りテスト,1日の歩数を測定した。【結果】介入前後で,左右下肢筋肉量は4.98kg→5.18kg,等尺性膝関節伸展筋力は右1.04→1.29Nm/kg・左1.01→1.22Nm/kg,最大歩行速度は0.49→0.65m/秒,5回立ち座りテストは13.7秒→10.9秒,歩数は1351→2589歩(フレームコルセット装着)となった。プログラム実施率は100%であり,本症例より「歩数計を用いることで,目標が明確となり,積極的に取り組めた」との意見を伺った。介入期間中疼痛出現などの副作用は認めなかった。【結論】本症例報告の結果は,歩数計を用いたセルフトレーニングが腰椎椎体骨折患者の運動機能を改善させる介入として有用である可能性を示したと考える。