理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-MT-23-3
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膝関節伸展拘縮に対する超音波動態観察の有効性について
拘縮部位の同定を行った大腿骨骨幹部骨折術後の一症例
佐藤 剛章山本 昌樹野田 恭宏
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抄録

【はじめに,目的】高齢者の下肢外傷後は,膝関節拘縮を呈することが多く,受傷前の関節可動域(ROM)を獲得できない症例も経験する。今回,大腿骨骨幹部骨折の術後症例において,大腿骨前脂肪体(PFP)と内側広筋(VM),外側広筋(VL)との癒着瘢痕形成によって膝関節伸展拘縮を呈した症例を経験した。超音波検査装置(エコー)を用いた癒着瘢痕部位の同定と,エコーの動態観察による運動療法が奏効した。本症例における理学療法経過と,エコー所見を踏まえた病態について報告する。【方法】症例は70歳代の女性で,受傷前の日常生活活動が自立し,畑仕事も可能で,下肢の機能障害を認めていなかった。自宅敷地内にて転倒受傷し,他院へ救急搬送され,受傷1週間後に髄内釘による観血的骨接合術が施行された。術後3週(受傷4週間後)で当院に転院となり,当院での初期理学療法評価は,ROMが膝関節屈曲100°,伸展-15°,徒手筋力検査(MMT)が膝伸展4,Extension lagが陽性。VMとVL,PFPに圧痛を認め,膝関節屈曲時に大腿内側に伸張痛を呈していた。視診・触診において,膝蓋骨高位と外側偏位が確認され,膝蓋骨の長軸移動が制限されており,膝蓋大腿関節でのROM制限が顕著であった。大腿遠位部をエコーにて観察すると,全体的に高エコー像を呈していた。膝関節屈曲時のエコーによる動態観察では,VM及びVL,PFPの側方移動が低下していた。VMとVL,PFP間での動きが乏しく,これら組織間での癒着瘢痕形成や滑走性低下がうかがわれた。運動療法は,VMとVLの柔軟性改善を目的に,同筋の反復収縮やストレッチングを実施した。VMとVL,PFP間とでの癒着剥離と滑走性改善を目的に,膝蓋骨上部の軟部組織の持ち上げ操作と大腿四頭筋セッティングを実施した。さらに,膝関節屈曲最終域で,大腿遠位部軟部組織の側方グライディング操作を実施した。【結果】当院運動療法開始後2週で,膝関節屈曲が135°まで改善した。伸張痛は,内側から外側に変化し,VLを中心に治療を行ったがROMの改善が得られなかった,大腿骨顆部外側付近のエコーにて,プローブによるコンプレッションテストでは,膝関節屈曲最終域で動きの少ない一部のVLが存在し,同部の癒着瘢痕と柔軟性低下がうかがわれた。運動療法開始後9週の膝関節屈曲が160°,伸展0°,MMT膝伸展5,Extension lag陰性となった。独歩やしゃがみ動作も可能となり退院となった。【結論】本症例の初期エコーではPFPとVM間の癒着によって,膝関節屈曲時のVMの側方移動,屈曲135°以降ではVLの癒着瘢痕と柔軟性低下によるVLの側方移動の低下が観察できた。本症例ではVMとVL,PFP間の癒着瘢痕と柔軟性低下に対して介入することで膝関節屈曲制限の消失に至った。エコーによる動態観察は,癒着瘢痕部位の同定や状態を視覚的に把握でき,理学療法評価の客観性と治療効果の検証に有効な手段であると考える。

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© 2016 日本理学療法士協会
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