理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-KS-13-6
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口述演題
頭蓋骨由来ヒト骨髄間葉系幹細胞の培養上清および移植効果の検討
大倉 優之介深澤 賢宏大塚 貴志富安 真弓猪村 剛史大鶴 直史河原 裕美籬 拓郎弓削 類
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抄録

【はじめに,目的】中枢神経疾患に対する再生医療の中で,間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:以下,MSC)が注目されている。MSCは様々な組織から採取可能であるが,採取した組織によってその特性が異なることが報告されている。そこで本研究では,新たな移植細胞の候補として頭蓋骨由来ヒト骨髄MSC(CMSC)に着目した。頭蓋骨は発生学的に神経と同じ外胚葉由来であり,中枢神経障害に対する移植効果が期待されている。そこで,in vitroにおいて,CMSCの分泌する液性因子が神経細胞の軸索伸長に与える影響を検討した(実験1)。さらに,脳損傷モデルマウスに対して,CMSCを移植し,機能回復に与える影響およびその作用機序の検討を行った(実験2)。【方法】ヒトの頭蓋骨から脳神経外科手術時に骨髄細胞を採取後,培養皿に播種し接着細胞をCMSCとした。実験1では,増殖培地でCMSCを24時間培養後,培養上清を採取した。マウス・ラット雑種神経芽細胞腫(NG-108)を用い,通常培地を用いる通常群とCMSCの培養上清を用いる上清群の2群で培養を行った。1日間の培養後,神経細胞のマーカーであるNF-Hを用いて蛍光免疫染色を行い,軸索伸長に与える影響を検討した。実験2では,マウス脳損傷モデルを作成し,損傷24時間後にCMSC(移植群)とPBS(PBS群)をそれぞれ局所移植した。運動機能評価にはBeam walking testを用いた。組織学的解析として,損傷面積の評価にはH&E染色,神経細胞保護効果の評価にはDAB染色,グリア細胞の集積の評価には蛍光免疫染色を行った。また,遺伝子学的解析としてreal time RT-PCR法を用いた。【結果】実験1において,上清群は通常群と比較してNG-108の軸索を有意に伸長した。実験2において,移植群で有意な運動機能の改善が認められた。H&E染色では,移植群において有意な損傷面積の減少を示した(移植35日後)。さらに,DAB染色では損傷35日後において移植群で神経細胞のマーカーであるMAP2の陰性面積が有意に小さく,移植群において神経細胞の保護効果があることが示された。real-time RT-PCR法による細胞死マーカーの遺伝子発現(Bax/Bcl2)においても,移植群で有意な低下を認めた。また,損傷35日後において,損傷境界部のGFAPの陽性率が移植群で有意に小さく,PBS群と比較してグリア細胞の集積が少ないことも示された。移植細胞の同定評価では,損傷7日後において移植細胞が観察されたが,それ以降は観察されなかった。また移植細胞の神経系細胞への分化は観察されなかった。【結論】実験1では,上清群で神経突起が有意に伸長し,CMSCが放出する液性因子は軸索伸長作用を有することが示された。実験2では,移植群において有意な機能回復が認められた。しかし,CMSCの損傷部への長期間の生着は認められなかった。これらの結果から,認められた機能回復は,移植細胞が放出する液性因子による神経保護および軸索伸長効果もしくはグリア瘢痕の抑制効果によるものであることが示唆された。

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