理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-RS-04-1
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口述演題
肺気腫症ラットにおける運動介入後の肺内マクロファージおよび炎症性サイトカインの変化
今北 英高金村 尚彦藤田 直人西井 康恵
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抄録

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)は世界的にも患者数が急増しており,2020年には心臓病・脳卒中に次ぐ世界の死亡原因の第3位になると予想されている。COPDが呼吸機能に悪影響を及ぼすことは周知されているが,それだけでなく,下肢骨格筋の最大随意収縮力の低下や横隔膜筋線維の遅筋化,代謝亢進による体重減少と栄養障害なども報告されており,現在では骨格筋機能異常や栄養障害,全身性炎症などを呈する全身性疾患として捉えられている。本研究は,COPDの1つである肺気腫症のモデルラットを作成し,トレッドミル運動を実施,その後の肺組織のマクロファージおよび炎症性サイトカインの変化を検討した。【方法】10週齢のWistar系雄性ラットに対して,シャム群,肺気腫群,肺気腫+運動群(運動群)の3群を設定した。肺気腫群は,タバコ煙溶液(CSS)およびリポポリサッカライド(LPS)を気管内に4週間噴霧投与し,運動群には投与後2週目に運動負荷試験にて運動強度を設定,3週,4週目の2週間をCSSおよびLPSを継続投与しながら,走行運動を実施した。肺組織はCD68およびCD163,CD206抗体を用いた蛍光免疫染色を,また,血清サンプルは炎症性サイトカインであるIL-1α,IL-1β,IL-4,IL-6,IL-10,TNF-αを分析した。【結果】肺気腫群の肺組織においてCD68陽性細胞が顕著に観察され,マクロファージの浸潤が認められた。しかし,運動群ではCD68陽性細胞が減少していた。CD68+CD163陽性細胞数は,シャム群で101.5±36.3,肺気腫群で381.6±109.5,運動群では145.7±64.6であり,CD68+CD206陽性細胞数は,シャム群で114.7±25.2,肺気腫群で700.0±106.4,運動群では310.12±62.9であった。また,最終日におけるトレッドミル運動前後でのサイトカインの変化率は,シャム群および運動群では,運動後に低下傾向を示したが,肺気腫群は増加傾向をしめした。しかし,3群間に有意な差は認められなかった。【結論】肺気腫群では,肺組織の炎症所見が顕著に観察されたが,運動群においては炎症所見が軽減し,M2マクロファージを示すCD68+CD163およびCD68+CD206陽性細胞数は有意に低下した。炎症誘発性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインにいては,有意な差は認められなかったが,肺気腫群において高値を示し,運動による炎症反応を惹起している可能性が示唆された。これらの結果から,個々における至適運動負荷を設定し実施した場合,慢性呼吸器疾患において呼吸機能だけでなく,肺組織自体も改善させる可能性が示唆された。結論として,肺気腫モデルにおいて,トレッドミル走行運動を2週間実施することで,運動機能の改善だけでなく呼吸機能を改善し,さらには肺組織の炎症症状を改善させた。このことは,呼吸器疾患に対する理学療法の新しい基礎的知見になると思われる。

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© 2016 日本理学療法士協会
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