理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-NV-05-5
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口述演題
視覚誘導性自己運動錯覚が脳卒中片麻痺者の上肢運動機能回復に及ぼす影響
―ABABシングルケースデザインによる検討―
松田 直樹金子 文成柴田 恵理子髙橋 良輔本澤 征二稲田 亨小山 聡
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抄録

【はじめに,目的】視覚誘導性自己運動錯覚(kinesthetic illusion induced by visual stimulation:以下KiNVIS)とは,自身の四肢が動いている映像の観察によって,実際には身体が動いていないにも関わらず,あたかも動いているような知覚が生じることである。我々はこれまで,脳卒中片麻痺者を対象とし,KiNVISを用いた治療アプローチを実施することで麻痺側上肢の運動機能が即時的に変化することを報告してきた。さらに今回,脳卒中片麻痺者一症例を対象に,KiNVISを通常の上肢リハビリテーションと併用して長期的に実施することが,上肢運動機能の回復にどのような影響を与えるのかを検討した。【症例情報】50代女性。左被殻出血による右片麻痺(発症から78日)。Brunnstrom Stage上肢III・手指III・下肢V,表在覚軽度鈍麻。高次脳機能障害は認められず,院内ADLは概ね自立していた。【方法】本研究は,通常の上肢リハビリテーションのみを行う期間(A1・A2期)及び,通常の上肢リハビリテーションに加えて10分×2回のKiNVISを実施する期間(B1・B2期)から構成されるABABデザインとした。A・B期共に土日祝日を除いた各10日間とした。KiNVISに用いた映像は非麻痺側手指屈伸映像を左右反転させたものとした。映像を再生するモニタは,麻痺側上肢の上に配置し,映像の前腕と実際の前腕の連続性が保たれるように配置した。KiNVIS後に,運動錯覚感の強さをVisual Analog Scale(0mm:全く感じない-100mm:実際に手が動いている)にて聴取した。評価項目は,Action Research Arm Test(以下ARAT)とFugl-Meyer Assessmentの手指項目(以下FMA),Motor Activity Logにおける使用頻度(以下MAL)とした。各評価は初期評価及び各期終了時に実施した。各評価において,各期終了時の評価と前回評価時との差分から,A1期における変化度(ΔA1),B1期における変化度(ΔB1),A2期における変化度(ΔA2),B2期における変化度(ΔB2)を算出した。【結果】KiNVIS時の運動錯覚感の強さは平均48.3mmであった。ARATは,ΔA1:0点,ΔB1:9点,ΔA2:3点,ΔB2:14点であった。FMAは,ΔA1:0点,ΔB1:4点,ΔA2:2点,ΔB2:3点であった。MALは,ΔA1:0点,ΔB1:6点,ΔA2:5点,ΔB2:14点であった。全ての評価項目において,A1・A2期と比較してB1・B2期で大幅な改善が認められた。【結論】一症例の結果ではあるものの,A期と比較して,KiNVISを行ったB期の方が上肢運動機能に大幅な改善が生じた事から,KiNVISの長期実施は上肢運動機能回復に効果的であると考えられる。これまでKiNVISの即時的な効果に関しては報告がなされているが,今回は,ABABデザインによりKiNVISの長期実施が上肢運動機能回復に効果的であることを示した。今後,さらに前向き研究を多くの症例で実施する価値があるものと考える。

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© 2016 日本理学療法士協会
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