理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-HT-02-3
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透析中の運動療法により皮膚灌流圧が変化する
荒木 昇平櫻井 雄太宇井 広士児嶋 大介東山 理加太田 晴基西山 一成吉岡 和泉坂野 元彦幸田 剣中村 健田島 文博
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抄録

【はじめに,目的】血液透析患者(特に糖尿病性腎症)は,動脈硬化を背景とした末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease:以下PAD)を高率に合併しており,増悪して潰瘍・壊疽を合併し,切断に至る事もある。そのため,PADの早期診断,治療の開始が重要である。PADの評価には,検出率の高い皮膚灌流圧(Skin Perfusion Pressure:以下SPP)の測定が有用とされている。また,透析患者の多くは,運動機能や運動耐容能が低下しており,透析中運動療法によって,それらが改善したと報告がある。しかし,透析中運動療法によってSPPの変化を調査した報告はない。そこで本研究の目的は,透析中運動療法がSPPに与える影響を調査する事とした。【方法】対象は当院通院中の血液透析患者16名。透析中の研究に同意した8名を運動群,同意しなかった8名を非運動群とした。運動群は,週3回の透析日に30分間の自転車エルゴメーター運動を2ヶ月間実施した。自転車エルゴメーター運動は無負荷で回転速度は被験者が選択した。運動は透析開始1時間後に開始し,運動中および運動終了後30分まで15分毎に血圧・心拍数,Borg scaleを測定した。中止基準は胸痛,呼吸困難,顔面蒼白,頭痛,血圧異常が生じた場合とした。2ヶ月間の運動期間前後で全身持久力,筋力,SPPを測定した。全身持久力は,6分間歩行テスト(6 Minute Walk Test:以下6MWT)を測定した。筋力は,左右大腿四頭筋に対し,パワートラックIIMMTコマンダーを用いて測定した。SPPは,左右足底部に対し,PAD4000を用いて測定した。結果の解析は,群間の比較には二元配置分散分析を行った。各群の運動期間前後の比較にはWilcoxon符号順位和検定とt検定を行った。また,運動中の平均血圧と心拍数,Borg scaleは一元配置分散分析を行い,post hocテストとしてTukey-Kramer法を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】運動により平均血圧は,92.0±10.0mmHgから96.8±11.5mmHgと有意に上昇した(P<0.05)。心拍数は,74.4±12.7bpmから83.2±12.6bpmと有意に上昇した(P<0.05)。Borg scaleは,11から12(P<0.05)と有意に上昇した。6MWTと筋力は,各群の運動期間前後および群間で有意な差は認めなかった。運動群においてSPPは,運動期間前後で65.6±20.0mmHgから83.9±15.8mmHg(P<0.05)と有意に上昇したが,非運動群では有意な変化を認めなかった。【結論】本研究と同様に透析中の運動療法として,自転車エルゴメーターを用いた過去の研究では,運動中の心拍数上昇が平均20bpm程度の運動強度によって,6MWTが上昇していた。本研究では平均10bpmの心拍数上昇であり,比較的低強度であったため,6MWTや筋力が向上しなかったと考える。しかし,本研究のような低強度の運動でもSPPが上昇した。本研究でSPPが上昇した事から,透析中の運動療法が透析患者において末梢循環を改善して,PADのリスクを低減させる可能性があると示唆された。

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© 2016 日本理学療法士協会
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