理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-NV-08-2
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口述演題
発症早期のPusher現象例における主観的身体垂直の出発点効果の分析
半側空間無視の有無による差異
深田 和浩網本 和藤野 雄次井上 真秀播本 真美子高橋 洋介千葉 祐也瀧口 莉帆塚畑 美里牧田 茂高橋 秀寿
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抄録

【はじめに】Pusher現象の姿勢傾斜の矯正に対する抵抗は,前額面の主観的身体垂直(SPV)の異常が関与するとされているが,その特性については一定の見解は得られていない。近年,矢状面のSPVでは測定の開始方向すなわち出発点に準拠して傾斜することが健常者で観察されているが,前額面のSPVの出発点効果は不明である。また半側空間無視(USN)が垂直認知に影響を与えることも示されており,Pusher現象をUSNの有無で検討することは重要と考える。本研究の目的は,Pusher現象例のSPVの出発点効果とUSNの有無による差異を明らかにすることとした。

【方法】対象は初発の右半球損傷患者32例(年齢:68.3(平均値),測定病日:14.6)とした。Pusher現象とUSNの判定にはSCP(各下位項目>0をPusher現象あり(P+))とBIT通常検査(合計<131をUSNあり(N+))を用い,P-N-(n=11,SCP:0.1),P+N-(n=8,SCP:3.2),P+N+(n=13,SCP:4.0)の3群に分類した。SPVの測定は,垂直認知測定機器を用いた。2名の検者が座面を左右に15°と20°傾けた位置から1.5°/秒の速さで回転させ,対象者が垂直だと判断した時点の座面の角度を記録した。閉眼条件をSPV,開眼条件をSPV-EOとし,手順はABBABAAB法を用いた。出発点効果を検証するために麻痺側(Affected side;A)開始(PV-A,EO-A)と非麻痺側(Sound side;S)開始(PV-S,EO-S)の各4回の平均値(傾斜方向性)と標準偏差値(動揺性)を算出した。角度は鉛直位を0°,麻痺側への傾きを-とした。統計的手法には一元配置分散分析とBonferroni法を用い,3群の傾斜方向性と動揺性を比較した。

【結果】P-N-,P+N-,P+N+において,PV-Aの傾斜方向性は-1.6°,-6.1°,-6.1°でありP+N-,P+N+で有意に麻痺側へ傾斜した。動揺性は同順に2.0,1.7,2.8であり差はなかった。PV-Sの傾斜方向性は1.5°,2.8°,2.5°であり差はなかった。動揺性は1.7,3.7,4.5でありP+N-,P+N∔で有意に高値を示した。一方EO-Aの傾斜方向性は-2.3°,-5.0°,-5.8°であり差はなかった。動揺性は0.9,1.6,2.8でありP+N+はP-N-よりも有意に高値を示した。EO-Sの傾斜方向性は2.6°,4.1°,5.2°であり差はなかった。動揺性は1.2,2.0,2.4であり差はなかった。

【結論】本研究から,麻痺側開始ではP+N-,P+N+においてSPVは大きく麻痺側へ傾き,動揺性が小さかった。これは身体が麻痺側へ傾いた状態で垂直認知が保持されるため,姿勢矯正に対し抵抗するのではないかと考える。一方,非麻痺側開始では,SPVは比較的鉛直位に近く,動揺性が大きいため,麻痺側への傾倒を許容し無自覚になると推察する。またSPV-EOでは,P+N+において麻痺側開始の動揺性が高値を示したことは,USNが無視空間の視覚的な垂直定位に影響を与える可能性が示された。以上からPusher現象の垂直認知の検討では,測定の出発点やUSNの有無を考慮する必要が示唆された。

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© 2017 日本理学療法士協会
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