理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-NV-08-1
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口述演題
大脳白質病変によるPusher現象の重症度,体幹機能,日常生活動作能力の差異
藤野 雄次網本 和深田 和浩関根 大輔井上 真秀高橋 秀寿牧田 茂
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抄録

【目的】大脳白質病変は,姿勢定位を障害する要因とされるが,Pusher現象例における大脳白質病変の影響については明らかではない。本研究の目的は,Pusher現象例の大脳白質病変による機能・能力障害ならびに日常生活動作能力(ADL)の差異を検証することである。

【方法】対象はScale for Contraversive Pushing(SCP)を用いてPusher現象が陽性と診断された(SCP各下位項目>0)初発脳梗塞患者37例(年齢70.9±11.4歳(平均±SD),性別:男性28名・女性9名,右片麻痺5名・左片麻痺32名,測定病日17.7±7.3日,入院日数38.6±13.4日,全例右手利き)とした。脳損傷領域と大脳白質病変の評価には,各々MRIの拡散強調像,FLAIR像を用いた。病型はBamford Classificationを用い,Total Anterior Circulation Stroke(TACS;T群)とPartial Anterior Circulation Stroke(PACS;P群)に分類し,大脳白質病変はFazekas Scaleにより,側脳室周囲病変(PVH)と深部皮質下白質病変(DWMH)を評価した。PVHとDWMHいずれかがGrade2以上を白質病変あり(+群),いずれもGrade1以下を白質病変なし(-群)とし,対象者をT+群,T-群,P+群,P-群の4群に割り当てた。機能評価にはStroke Impairment Assessment Set(SIAS),Pusher現象の重症度はSCP,体幹機能はTrunk Control Test(TCT),ADLはBarthel Index(BI)を評価し,BIはBI効率(利得/入院日数)を算出した。統計的手法には一元配置分散分析,多重比較検定を用いた(有意水準5%未満)。

【結果】T+群(n=5),T-群(n=11),P+群(n=8),P-群(n=13)のSIASは順に20.6±4.0,21.5±7.5,35.5±12.7,40.9±9.6であり,T+群とT-群はP+とP-群より有意に低かった。同順でSCPは5.0±1.2,4.9±0.7,3.9±0.9,3.3±1.0,TCTは9.6±13.2,16.4±13.4,19.5±19.2,36.0±13.0であり,いずれもT+群およびT-群とP-群との間に有意差があった。BI利得は0.4±0.3,0.4±0.4,0.6±0.5,0.9±0.6であり有意差はなかった。

【結論】SIASの結果から,機能障害の程度は病型別で有意差を認め,脳損傷領域に依拠していることが示された。一方,SCPやTCTは広範な脳損傷例(T+,T-群)と部分的脳損傷に大脳白質病変を合併した例(P+群)では同程度に障害され,P-群では広範な脳損傷例よりもその重症度は軽度であった。すなわち,大脳白質病変は投射線維など脳内ネットワークに関与する神経機構に影響し,能力障害を修飾することが示唆された。各群のBI効率に有意差がなかった要因として,中等度~重度の機能障害を有していることや,対象者全例がADLの回復を遷延させるPusher現象を有していること等が推測され,短期的なADLの変化を反映しえなかったと考えられた。

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© 2017 日本理学療法士協会
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