主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【背景】
近年,重症の急性肺炎の管理として注目されている方法に腹臥位療法がある. 2014年のLeeらの報告によると腹臥位療法は10時間/日以上の腹臥位時間を確保できたプロトコルのみ有効と報告している.長時間の腹臥位管理を行うためにはマンパワーと安全管理に配慮が必要だが,特別な機材を必要としない方法である.今回,統合失調症が既往にあり,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)にて挿管人工呼吸器管理となった患者に対し,鎮静を行いながら腹臥位を中心とした早期からの長時間の体位ドレナージを実践し,著明な酸素化改善がみられたため以下に報告する.
【症例】
40歳男性.既往歴:統合失調症,気腫性膀胱炎.入院前ADLベッド上生活. BMI:13.12kg/m2.統合失調症の病状が落ち着かず医療保護入院中.夜間に脱衣行為があるため体幹抑制を行っていたところ,意識障害,低酸素状態となり当院救急搬送.両側肺背側に著明な肺炎像ありARDSと診断,挿管し人工呼吸器管理されICU入室となった.
【結果】
第1病日:救急搬送時P/F比:56.6.挿管後P/F比:88.63.第2病日:P/F比:173.2.第3病日:P/F比:255.3.ベッド上リハ開始, Nsと連携し翌日まで計14時間腹臥位管理実施.鎮痛剤offすると夜間体動激しく,攻撃性強く抜管のリスクあり再開,鎮静剤増量し過鎮静なくRASS:-1で経過.第4病日:P/F比:340. X線画像上,炎症・浸潤影の改善がみられ酸素化も改善.腹臥位・前傾側臥位管理継続.第12病日:日中人工鼻へ.第14病日:ICU退室しHCU入室.車椅子移乗実施.第23病日:HCU退室し一般病棟へ.第59病日:前医へ転院となった.
【考察】
本症例では統合失調症により攻撃性が強くなっており,抜管等のリスクも考えられた.過鎮静は呼吸筋・骨格筋萎縮やVAP等を引き起すリスクがあるが, 医師・看護師と連携しRASS:-1で鎮静・鎮痛を行うことで危険行動を抑制し,早期からの長時間の腹臥位・前傾側臥位管理が可能となり,背側の気道クリアランス改善・肺拡張の促進・換気血流比不均等が改善したことで酸素化が改善したと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の報告において本人及びその家族に対し十分な説明を行い, 承諾を頂いた.