主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】従来、変形性膝関節症(以下 膝OA)に対しての装具療法は膝自体に装着する装具や足底板が主であったが、膝OAに対する短下肢装具として、Ottobock社よりAgilium Freestep(以下AFS)が販売されている。装着方法がゴム製の足板を靴に挿入し、下腿部のベルトを留めるだけと簡易なもので、下腿支持部により荷重時に微弱な膝関節外反モーメントが発生し、床反力作用点が外側に偏位することで膝関節内反モーメントが減少し膝関節内側の疼痛が軽減するというものである。装具適応は内側型膝OA(KL分類Ⅱ)。国外でAFSの継続使用により疼痛軽減効果があることが報告されているが、国内での使用報告は僅かである。今回、従来の装具や足底板で著効がみられなかった重度変形性膝関節症患者の歩行時の膝関節内側の疼痛を軽減させることを目的とし、AFSを装着していただき、疼痛(NRS)・WOMAC・使用した感想を調査したので報告する。
【方法】対象は重度両側膝OA患者(KL分類Ⅲ-Ⅳ)2名、下肢MMTは3~4レベル、AFS装着肢は歩行時に疼痛を呈している左下肢とした。左膝伸展可動域は症例Aが-10°、症例Bが-15°であった。AFSの下腿支持部の内外反アライメントは、過矯正となり踵接地時に足部内反が誘発されないように立位下腿アライメントに対して膝関節外反方向へ約10°程度押す角度とした。AFS装着方法を説明した後、日常生活の中で使用し質問紙表に装着の有無・疼痛の強さ・歩数・行なった運動を記載していただいた。質問紙表の記入期間はAFS装着期間前1週間(pre)、AFS装着期間中2ヶ月間、AFS装着期間後1週間(post)とした。WOMACはpre・postに1回ずつ記入とした。
【結果】症例Aはpre (NRS4~9/10・WOMAC35/96点)、AFS装着期間中(NRS0~8/10)、post( NRS1~5/10・WOMAC33/96点)となった。主訴はpre 「左膝の骨が痛む」、post 「両脚がこわばる・背中が痛む」となった。使用した感想は「簡単に装着できた」「室内で付けられなかった」「靴の種類によっては付けられなかった」であった。症例Bは非装着肢の膝関節痛が増悪し、2ヶ月間の継続使用が困難であった。pre(NRS 1~4/10・WOMAC52/96点)、AFS装着期間中は(NRS2~8/10)、Post(NRS2~6/10・WOMAC44/96点)という結果になった。主訴はpre「歩き始めで左膝の内側が痛む」、post「右膝と腰が痛む」となった。使用した感想は「しっかりと支えられている感じがする」「付けている左膝は良いが右膝が痛くなってしまった」であった。
【結論】推奨されているGradeより重度の膝OAであったが、装着肢の歩行時の膝関節痛は減少する結果となった。歩行観察からAFS装着時の踵接地~立脚中期にかけての膝関節ラテラルスラストの減少が確認され、それにより疼痛が減少したのではないかと考えられる。一方で負担が他部位に分散する傾向が両者共にみられた。それに関しては今後、重心動揺計や表面筋電図を用いて非装着肢・腰背部の活動量の変化を計測する必要があると感じた。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り、対象者には本調査の趣旨について事前に十分な説明を行い、同意を得たうえで実施した。