理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 26
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歩行速度向上に難渋した大腿切断者に対する歩行介助ロボットを用いたトレーニング効果の検証
比嘉 康敬中谷 知生水田 直道堤 万佐子田口 潤智笹岡 保典
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抄録

【はじめに・目的】

近年,理学療法の歩行トレーニング場面において,歩行介助ロボットを用いる機会が増えている.今回,歩行速度の向上に難渋した大腿切断者の歩行トレーニングにおいて,リーフ株式会社製歩行リハビリ支援ツールTreeを利用したことで即時的に下肢筋活動と歩行速度が改善したので,考察を交え報告する.

【方法】

対象は急性下肢虚血により左大腿切断を呈した70歳代男性である.発症後約1ヶ月経過時点で当院に入院し,4ヶ月経過時点から大腿義足(マジックテープ式ライナーソケット,油圧式多軸膝継手,サッチフット)装着下での歩行トレーニングを開始した.身体機能は右下肢筋力(MMT):股関節屈曲5,伸展および外転4であった.歩行はロフストランドクラッチ(以下LC)を用いて片腋窩軽介助で可能であったが,切断側に上手く荷重を乗せる事が出来ず揃え型となっていた.そこで,本症例にTreeを使用することで,より安定した歩行を提供し,効果的な歩行トレーニングが可能になると考え効果検証を行った.計測は10m歩行を①LC,②Tree③Treeで20分間歩行トレーニング後LCの順に実施した.なお,持続効果の検証として毎日20分間Treeを用いた歩行トレーニングを約1週間実施し,④LC,⑤Treeを再評価した.Treeの設定は症例が最も歩き易いと感じた歩行速度(0.6m/sec)とした.測定項目は切断側の立脚期前半における大臀筋筋活動(GM)と足圧変化,歩行速度,strideとした.筋電図は歩行周期中の最大振幅で除すことで正規化を行い平均振幅を算出した.足圧変化は足圧計(PiT:リーフ株式会社)にて算出された,切断側下肢立脚期の前後荷重変化時点(前足部の荷重成分が踵部を上回った時点)を用いた.

【結果】

各測定項目の結果は計測を行った順(①②③④⑤)に,GM(%)は30.5±8.5,53.3±9.3,45.8±9.6,59.4±8.7,74.4±12.1,足圧変化(%)は76.2±5.8,64.5±5.2,65.6±4.9,61.0±5.7,55.6±3.1,歩行速度(m/sec)は0.32,0.59,0.52,0.57,0.62,stride(m)は0.65,0.95,0.87,0.91,1.00であった.TreeはLCと比較して歩行速度やstride,GMの値が増加し,足圧はより早期に前方へ荷重を移行させることが可能となった.また,歩容も前型歩行へと変化し,即時交換やその後の持続効果も得られた.

【考察】

本研究結果から,Treeは歩行速度やstrideを増大させ,進行方向への重心移動を円滑にさせることが示唆され,これはTreeが安定性や症例に合わせた適切な歩行速度を提供できたことが影響したと考える.またGM筋活動量の増大は,前型の歩行を促せたことが要因であると考える.

Treeは他のロボットと異なり,直接利用者の身体に装着せず,グリップを握った利用者の側方で歩行動作を誘導できるため,様々な歩行状態に適応できる可能性があると思われる.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た.また所属施設長の承認を得て実施された.

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© 2019 日本理学療法士協会
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