主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【目的】近年、歩行機能と認知機能との密接な関連が知られている(Montero-Odasso Mら,2012年)。例えば、遂行機能の低さが5年後の快適歩行速度低下に影響したり、歩行能力低下と脳萎縮や白質病変などが関連するなど、歩行制御に高次脳機能が関連していることを裏付ける知見が報告されている。また近年では、歩行時の加速度計測の有用性や妥当性が報告され、認知機能と歩行のばらつきとの関連なども知られるようになった。そこで、今回は一般的な歩行能力検査である10m歩行の快適・努力条件下で加速度計測を行い、認知機能低下が歩行パラメータのどのような側面に影響するか検討した。
【方法】対象は、自立した生活を営む地域在住高齢者42名(75±7歳)である。全対象に種々の認知機能検査を実施し、①MMSEと言語流暢性テスト(VFT)の合計点(37/38点)、②Stroop testの干渉率(200%超)、③基本チェックリストの認知機能3設問(一問でも該当)の①~③のうち2つ以上に該当する者を認知機能低下群(15名、79±8歳)、該当が1つ以下の者を健常群(27名、73±5歳)とした。対象者には10m歩行を快適・努力条件で実施した。両条件ともに、計測区間の所要時間を計測し歩行速度を算出した。また、対象者の第3腰椎レベルに加速度センサ(MicroStone社製)を貼付して歩行時の体幹加速度を計測し、演算ソフト(MATLAB, R2015a)を用いて解析を行った。その上で、各ストライド周期から平均ストライド時間(平均ST)、ストライド時間の変動(STV)を算出した。また、歩行時の定常性を示す自己相関係数(AC)および加速度振幅(RMS;歩行速度の二乗値で除したもの)を垂直(VT)、側方(ML)、前後(AP)成分それぞれ算出した。統計解析は、全歩行パラメータを群間でunpaired t-testを実施した後、有意差を認めたパラメータを説明変数、認知機能低下有無を目的変数とする二項ロジスティック回帰分析を快適・努力歩行別に実施した。有意水準はいずれも5%とした。
【結果】快適歩行についてRMSの3成分全てで有意に低下群が高値を、HR(AP成分)で有意に低下群が低値を示した。有意差を認めた指標と年齢を説明変数に用いたロジスティック回帰分析の結果、回帰式は有意であったが有意な説明変数は抽出されなかった。一方、努力歩行において歩行速度(m/s)は低下群(1.5±0.3)vs健常群(1.9±0.3)で有意に低下群が低値を示した。また、RMSの全成分において有意に低下群が高値を示した。これらの指標と年齢を説明変数としてロジスティック回帰分析を実施したところ、回帰式は有意であったが有意な説明変数は抽出されなかった。
【結論】歩行速度結果より、対象者の歩行能力は比較的高いという特徴が考えられたが、認知機能低下群で加速度振幅の指標であるRMSが増大することが確認された。先行知見ではSTVなどの変動性に認知機能低下が反映することが報告されており、多変量解析の結果は慎重に精査する必要があると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】全対象者に対して、事前に目的と方法を説明のうえ同意の署名を得た。また。本研究は土佐リハビリテーションカレッジ研究倫理委員会の承認を得た(承認番号:TRC101605)。