理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-23-2
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ポスター演題
認知機能低下高齢者における歩行パラメータの変化
野嶌 一平野口 泰司松下 光次朗菅田 陽怜杉浦 英志
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抄録

【はじめに、目的】

認知症を発症するリスクが高い軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)を有する高齢者において、歩行能力が低下することが知られている。特に、歩行速度が遅くなり歩幅が狭くなることが報告されているが、その機序については不明な点が多い。集団にアプローチをする際に理学療法士としての視点を生かすためには、どういった歩行パラメータが介入対象となるのかを正確に理解しておくことが必要である。一方、歩行分析を正確に行う際には、三次元動作解析装置など高額な機器が必要となるが、大規模集団を対象とする場合は現実的ではない。そこで我々は、角速度センサを用いた機器を使った簡易な歩行解析装置を用いて高齢集団を対象とした歩行評価を実施し、認知機能低下を有する高齢者の歩行の特徴の抽出を行った。

【方法】

対象は、愛知県東郷町と名古屋大学が共同で行っている健診事業(東郷いきいき度チェック)に参加した65歳以上の地域在住285名とし、そのうち歩行解析を行った61名を解析対象とした。歩行測定では、歩行速度に加えて、対象者の大腿部に角速度センサを取り付け、任意の速度で10mの歩行路を歩く課題を行った。角速度情報は、累積和を取ることで関節角度を算出し、ドリフト現象に対してはスプライン補正を行った。認知機能はMontreal Cognitive Assessment日本語版(MoCA-J)で評価し、教育歴を含む30点満点中26点未満の高齢者を認知機能低下ありとした。統計解析は、R(3.4.3 for Windows)を使用し、目的変数を認知機能低下の有無、説明変数として歩行時の股関節運動のバラつき、年齢、性別、歩行速度を使ったロジスティック回帰分析を行った。

【結果】

集団における認知機能低下ありの高齢者は45.9%(28名)であり、この集団における歩行速度の低下は見られなかった。一方、ロジスティック回帰分析の結果より、認知機能低下ありのオッズ比は股関節運動のバラつき3.46(95%信頼区間:1.16-10.40)、歩行速度0.99(0.96-1.01)、年齢1.07(0.98-1.17)となり、股関節運動のバラつきが大きくなる傾向が示された。

【結論】

今回対象とした高齢者において、歩行機能のうち下肢の振り出し(股関節運動)のバラつきが認知機能低下に関係していた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は名古屋大学生命倫理委員会の承認を受け(承認番号:2015-0338-2)、ヘルシンキ宣言を遵守し実施した。同意に関しては、研究に参加する前に対象者に同意説明文書を手渡し、口頭にて十分に説明を行った上で、研究参加についての同意を署名により得た。取得したデータは連結可能匿名化とし、個人情報保護法に従い取り扱いには十分配慮した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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