理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-7-5
会議情報

口述演題
「足こぎ車いす」による運動が自立歩行困難な高齢者の運動意欲や日常生活活動に与える効果
佐久間 誠司福島 一雄
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】高齢者において筋力を維持増強することは、転倒・寝たきり予防に重要である。全身運動の中でも、歩行は手軽で効果が高い運動である。しかし歩行が困難な高齢者では実施できず、重垂バンドや徒手による抵抗運動などが行われている。これらの運動は単調なため高齢者には継続困難なときがある。「足こぎ車いす」は、足でペダルを回転させることで移動できる車いすである。自ら操作するため、運動に対する意欲の維持に役立つと期待される。本研究の目的は、自立歩行が困難な高齢者が「足こぎ車いす」を用いた運動を継続して行うことが可能か検討し、さらにその結果、下肢筋力の増強の有無、日常生活活動の維持、向上が可能であるか検討することである。

【方法】自立歩行が困難な入所者で本研究への参加の同意が得られた6名(男性3名、女性3名、78歳~105歳、平均年齢90.3±8.7歳)に「足こぎ車いす」を用いた運動を実施した。研究期間は1年で、開始時及び6ヶ月後、1年後に、①下肢筋力(Weight Bear Index,WBI)、②日常生活活動(FIM得点)、③脈拍(安静時及び「足こぎ車いす」走行時、介助歩行が可能なときは歩行時)、④最大走行スピードを測定した。期間終了後にアンケートを実施した。統計解析はt検定を用いた。

【結果】6名中、「足こぎ車いす」の自力走行が可能だったのは4名であり、2名は介助を受けながら走行した。また介助歩行が可能だったのは3名だった。運動頻度は開始から6ヶ月までが平均2.5回/週、6ヶ月から1年までが平均3.0回/週で有意に増加した(P=0.05)。下肢筋力(WBI左右平均)は開始時15%、6ヶ月後15%、1年後15%と、有意差はなかった。日常生活活動(FIM得点平均)は、開始時24.5点、6ヶ月後28.0点、1年後28.7点と改善傾向を示したが有意差はなかった(p=0.14)。6ヶ月時点での脈拍は、安静時(78.0±10.4)に比べ、「足こぎ車いす」走行時は平均+6増加、歩行時は平均+21増加と歩行時の脈拍は「足こぎ車いす」走行時に比べ有意に高かった(p=0.05)。最大走行速度は6ヶ月時点で平均0.75m/s、1年後時点で平均1.09m/sと有意に増加した(P=0.03)。アンケートでは、「足が強くなった」4名、「訓練が楽しかった」5名、「リハビリのやる気が出た」5名、また全員が「今後も乗りたい」と答えた。

【結論】加齢による機能低下も推測されたが、1年間の研究期間中に下肢筋力や日常生活活動の有意な変化はなく、身体機能は維持できたと言える。この理由を脈拍変化から考察すると、「足こぎ車いす」の運動負荷は、安静時よりは高いものの、歩行時に比べると負荷が軽く、適度な負荷量で運動できたためと推察される。アンケート結果より、運動意欲の向上が読みとれ、継続可能な運動であった。以上より「足こぎ車いす」による運動は安全性も高く、高齢者の運動に対する意欲向上や身体機能の維持に役立つと考えられる。

【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、平成27年度国立駿河療養所倫理審査委員会の承認を得て実施された。対象者には文書による説明と書面による承諾を得た。

著者関連情報
© 2019 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top