理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-12-2
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口述演題
中高齢者における運動トレーニングおよびラクトトリペプチドの摂取が認知機能と脳の酸素化動態に及ぼす影響
-8週間の介入試験-
濵崎 愛
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抄録

【はじめに】加齢に伴う脳の構造や機能の変化により、認知機能が低下する。認知機能低下は、認知症発症リスクを高めるため、認知機能の低下を予防することが重要である。認知機能を十分に発揮するためには、脳の酸素化動態が重要な働きをする。これまでに、運動習慣や乳製品の摂取は認知症発症と関連することが報告されているが、これらが認知機能や脳の酸素化動態に及ぼす影響は不明である。

【目的】本研究は、運動トレーニングと乳由来のラクトトリペプチド(LTP)摂取が、中高齢者の認知機能と脳の酸素化動態に及ぼす影響を検討することを目的とした。

【方法】健康な中高齢者64名を対象として、無作為化プラセボ対照二重盲検法により、運動なしのプラセボ群(Placebo; 18名)、運動を伴うプラゼボ群(Exercise; 15名)、運動なしのLTP群(LTP; 15名)、運動を伴うLTP群(Combined; 16名)の4群に群分けした。8週間の運動およびLTP摂取の介入前後において、認知機能と脳酸素化動態を測定した。認知機能の測定には、ストループ課題を用いて、非実行条件と実行条件における反応時間の差をストループ干渉時間として算出し、実行機能の指標とした。また、近赤外分光分析法を用いて、大脳皮質付近の神経活動に伴い変化する血中の酸素化ヘモグロビン濃度(oxy-Hb)の応答を、ストループ課題時の脳酸素化動態として、左右の前頭前野により測定した。

【結果】8週間の介入後、Combined群のストループ干渉時間は有意に短縮した(P <0.01 )。左前頭前野のoxy-Hb応答は、Exercise群(P < 0.05)、LTP群(P < 0.01)、Combined群(P < 0.01)で有意に増加し、右前頭前野のoxy-Hb応答は、LTP群(P < 0.01)、Combined群(P < 0.01)で有意に増加した。LTP群およびExercise群のストループ干渉時間の変化量はPlacebo群と有意な差は認められなかったが、Combined群の変化量はPlacebo群より大きかった(P < 0.05)。また、介入による左前頭前野のoxy-Hb応答とストループ干渉時間の変化に有意な相関関係が認められたが(r = -0.39, P < 0.05)、右前頭前野のoxy-Hb応答との間に有意な相関関係は認められなかった。

【考察】運動単独やLTP摂取単独では変化しない認知機能は、両者を併用することで向上することが示された。さらに、運動とLTP摂取の併用は、左前頭前野における脳活動の活性化を単独より増加させることで、認知機能の向上に関連することが示唆された。

【結論】中高齢者における8週間の運動とLTP摂取の併用は、脳酸素化の増大および認知機能の向上に効果的であることが示された。

【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の目的と内容を十分に説明した後に、研究参加の合意について自由意思にて署名の同意を得た。なお、本研究は筑波大学体育系研究倫理委員会の承認を受けて実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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