主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】入院中の患者の転倒転落は骨折や脳障害などの外傷を生じるなど、機能予後・生命予後に悪影響を与え、入院日数の長期化、医療行為追加のコスト負担等の有害事象が発生する可能性がある。その為、当院では多職種からなる転倒転落予防チームを編成し、転倒転落の原因探索や対策を検討し、患者の安全確保、転倒転落対策を組織的に取り組んでいる。先行研究では、転倒転落発生には筋力やバランス能力低下、視力低下、内服薬等様々な予測因子が相互に影響をしているとされているが、当院では検討を行ったことがなかったため、今回院内転倒転落事例において多職種で要因を調査し、それぞれの因子の関連について検討した。
【方法】平成29年4月~9月に起きた当院での転倒転落事例119件について、年齢、転倒転落時間帯、転倒転落当時の大腿四頭筋筋力(徒手筋力検査、MMT)、起立能力、認知症高齢者の日常生活自立度、内服薬剤(中枢神経系作用薬)を調査し、それぞれの因子の関連についてカイニ乗検定を用いて検討をした。有意水準は5%未満とした。
【結果】転倒転落事例119件のうち53%が80代の転倒であり最も多かった。転倒転落事例の大腿四頭筋筋力はMMT4、ついでMMT3が多く、起立能力は2群(上肢の支持にて自力起立が可能な群)が最も多い結果となった。認知症高齢者の日常生活自立度はⅢが最も多かった。中枢神経系作用薬を服用していた例は56例(全体の47%)であった。筋力および起立能力と認知症高齢者の日常生活自立度、中枢神経系作用薬服用との間に、相互に有意な差は認められなかった。消灯から朝食配膳までを夜間(21時~7時)、それ以外の時間帯を日中としたとき、中枢神経系作用薬服用群は有意に夜間の転倒転落が多い結果となった(P=0.0156)。特に明け方の6・7時台では、転倒転落事例11例のうちの9例が中枢神経系作用薬を服用していた。中枢神経系作用薬の中では、医療用医薬品の薬効分類112に分類される睡眠鎮静剤、抗不安剤を服用している例が最も多く、転倒転落事例全体の26.9%、中枢神経系作用薬内服例の57.1%であった。112系薬剤服用群についても夜間の転倒転落が有意に多かった(P=0.0407)。また112服用群に関しては認知症高齢者の日常生活自立度とも有意差が認められ、比較的自立度が高い、自立度Ⅰ・Ⅱ群での転倒転落事例については112を服用している例が有意に多い結果となった(P=0.0443)。
【結論】夜間帯の転倒転落への中枢神経系作用薬の影響は大きく、特に112系薬剤内服例での夜間・早朝の転倒リスクが高いといえる。また認知機能としての自立度が高い例では112系薬剤を服用することで転倒転落につながる可能性が大きいといえる。理学療法士が病棟での移動能力を評価し自立度を決定する機会は多くあるが、日中の身体機能や認知機能のみでなく、夜間の状況・内服薬剤の内容等多職種と情報共有をしながら総合的に評価・判断をすることが必要である。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者の個人情報の保護について:本研究はレトロスペクティブであり、統計に使用したデータと個人情報は切り離して処理し、個人が特定できないよう配慮を行った。抄録登録にあたり信州医療センター倫理委員会の承認を得た。(承認番号29-21)。
利益相反:本研究において、開示すべき利益相反関係にあたる企業や団体からの研究経費や資金提供は一切ない。