主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】
社会人基礎力(経済産業省2006。以下,基礎力)とは,「仕事をしていくために必要な基礎的な力」のことであり,仕事に必要な専門知識との関連性が指摘されている。当院では5 年前から臨床能力の向上を目的として基礎力育成研修を実施し,その結果基礎力の向上を確認したが,臨床能力と併せた検討は未実施であった。そこで本研究の目的を,新入職員の基礎力と臨床能力の継時的変化を調査すること,及び両者の関連性を明らかにすることとした。両者が継時的に向上することや両者の正の相関関係を明らかにできれば,新入職員の基礎力を育成する必要性を示すことができると考える。
【方法】
対象は,2017 年4 月に入職した理学療法士15 名(男性8 名,女性7 名,平均年齢22.7 歳)と指導者6 名(男性6 名,理学療法士免許取得後6 ~ 9 年)とした。新入職員1 人に対し指導者が1 人つき,指導者は1 ~ 4 名を指導した。基礎力育成研修は2017 年4 月から翌年3 月まで実施し,3 回(4 月,10 月,翌年3 月)の全体研修と日常業務の実践を通じて基礎力の育成を図った。10 月と翌年3 月に,基礎力と臨床能力について,新入職員は自己評価をし,指導者は担当する新入職員を評価した。基礎力は,これを構成する12 の能力要素について4 段階(1 点:全く有していない~ 4 点:充分有している)で評価された。臨床能力の評価には,芳野ら(2012)の「理学療法における臨床能力評価尺度(Clinical Competence Evaluation Scale in Physical Therapy:CEPT)」を用いた。CEPT は「理学療法実施上必要な知識の理解」「臨床思考能力」等の7 つの大項目と53 項目から成り,各項目について4 段階(1 ~ 4 点。得点が高いほど臨床能力が高い)で得点付ける評価法である。基礎力とCEPT の関連性には,翌年3 月時得点から10 月時得点を引いた値をΔ 基礎力,ΔCEPT とし両者の相関をSpearman の順位相関係数を用いて調べた。基礎力とCEPT の10 月から翌年3 月までの変化について,Wilcoxon の符号付順位検定を用いて調べた。有意水準は5% とした。
【倫理】
本研究に関し,当院臨床研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:289 号)。書面及び口頭にて本研究の趣旨を対象者に説明し承諾を得た。
【結果】
10 月時,新入職員自己評価による基礎力は26 点,CEPT は100 点,指導者評価によるそれらは28 点,88 点であった。翌年3 月時,新入職員自己評価による基礎力は27 点,CEPT は99 点,指導者評価によるそれらは33 点,108 点であった(得点は中央値)。基礎力,CEPT ともに指導者評価において翌年3 月時に有意な得点の増加を認めたが,新入職員自己評価では変化は無かった。Δ 基礎力とΔCEPT の相関は,新入職員自己評価では0.77(p<.05),指導者評価では0.58(p<.05)であった。
【考察】
新入職員自己評価,指導者評価ともにΔ 基礎力とΔCEPT の間に有意な正の相関を認めたことより,臨床能力の向上を目的とした基礎力育成の必要性が示唆されたと考える。また,指導者評価の結果において基礎力とCEPT が有意に向上したことから,基礎力育成研修の効果を示すことができたと考える。一方で新入職員が基礎力,CEPT とも変化していないと評価した原因について,自己効力感等の心理的側面を含めた調査が今後必要であるかもしれない。
【結論】
基礎力の変化量とCEPT の変化量の間に有意な正の相関を認めた。このことから,臨床能力の向上を目的とした基礎力育成研修の必要性が示唆された。また,1 年間の研修により,指導者は新入職員の基礎力とCEPT が向上したと判断したが,新入職員は自己の変化を感じていなかった。