理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OE-21
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口述発表
若手理学療法士・作業療法士の臨床能力分析と卒後教育方法の検討
櫻井 宏明近藤 克征松田 文浩小山 総市朗田辺 茂雄清水 鴻一郎金田 嘉清
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抄録

【はじめに】

本邦の理学療法士数は年々増加している。中でも有資格者の若手療法士数の増大が目立ち,理学療法士の質的低下が間題視されている。その要因は,卒前卒後教育の不足と体制不備が指摘されている。日本理学療法士協会は,2010 年に卒前教育の到達基準を「基本的理学療法が行えるレベル」から「ある程度助言指導の下で行えるレベル」へと下方修正している。職場における教育方法は,指導者が若手に対して1 対1 で教育を行う個別教育体制が多く実施されている。しかし卒後教育期間は,2 か月から3 年と職場によって乖離があり,一貰性のある体系的な卒後教育体制の構築が必要となっている。その構築には,若手の臨床能力の把握と個別教育体制の効果検証が必要と考えられるが,十分な検討は行われていない。本研究は若手理学療法士・作業療法士の臨床能力と卒後の個別教育体制による臨床能力を検討した。

【方法】

対象は,臨床経験年数1 年目から3 年目の若手理学療法士23 名,作業療法士7 名,合計30 名とした。評価者2 名(1 名はOSCE の評価者として10 年以上経験している理学療法士,もう1 名は病院の管理者理学療法士),模擬患者は,6 年以上模擬患者を実施している理学療法士とした。OSCE 受験者は,臨床経験年数3 年目11 名,2 年目10 名,1 年目9 名であった。OSCE 課題は,PT・OT のための臨床技能とOSCE(機能障害・能力低下への介入編)の中のレベル4(能力低下に対する介入技能)の9 課題の中から無作為に「起き上がり介入」を抽出した。なお,OSCE の得点は,評価者2 名と模擬患者にて協議し決定した。統計学的分析において,JMP13 を使用し,経験年数別比較は対応のない3 群間の比較と多重比較検定( Tukey-Kramer の HSD 検定)を行い,総合計点(12 項目,24 点),態度項目合計点(3 項目,6 点)ならびに技能項目合計点(9 項目,18 点)との関係をSpearman の順位相関を用いて行った。

【倫理】

筆頭研究者所属施設倫理委員会の承認を得た(承認番号:HM17-144)。

【結果】

臨床経験年数別比較において,総合計点,態度項目合計点,技能項目合計点すべて臨床経験年数が上がるにつれ向上傾向も有意差はみられなかった。二変量の関係において,技能項目合計点と総合計点との関係は,r=0.971 で非常に高く,態度項目合計点と総合計点との関係(r=0.631),態度項目合計点と技能項目合計点との関係(r=0.426)においても有意な相関がみられた。

【考察】

臨床経験年数別比較において,総合計点,態度項目合計点,技能項目合計点ともに臨床経験年数による点数の向上はみられなかった。この結果は,個人毎の向上が少なく,教育方法の検討が急務であることを示唆している。態度項目合計点が高い療法士は,合計点も高かった。これは,良好な態度が技能向上に必要であることを示唆していた。OSCE は,卒後においても臨床能力(態度,技能)の評価に有効であり,特に態度項目の向上が技能向上に必要であることから,態度項目の重要性をフィードバックすることが有効と考える。

【結論】

若手理学療法士・作業療法士の臨床能力分析において臨床経験年数別の有意差はみられず,教育方法の検討が急務と考える。卒後の個別教育体制の評価においても,OSCE は有効であり,積極的な導入が望まれる。

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© 2019 日本理学療法士協会
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