理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-B-8-10
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脳卒中患者における体幹固定型アームスリングが動作に及ぼす影響について
新崎 泰恵抱 志織抱 志織岩田 学岩田 学須藤 真史須藤 真史牧野 美里牧野 美里高見 彰淑高見 彰淑
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抄録

【目的】

 脳卒中患者で上肢の麻痺がある場合、三角巾やアームスリング装用で、歩容やバランスに影響を及ぼすことが判っている。我々は三次元解析装置を用いた先行研究で、三角巾が立脚時床反力の側方分力で装着側の外向きの力が大きくなることを示した。三角巾は体幹に固定されておらず、非麻痺側を軸としたターンでより影響が出ると思われる。また、立ち上がり、前方リーチ等でも同様であると推測された。そこでアームスリングを体幹に固定することで、三角巾装着時の問題を少なくする可能性を考えた。

 本研究の目的は、脳卒中患者に対し、腋窩ストラップで上肢を体幹に固定した、体幹固定型アームスリング装着時と標準的な三角巾装着時で、ターンを含む歩行やバランス、装着感を比較・検討することである。

【方法】

 対象は、脳卒中患者15名とした。除外基準は、著明な認知症・高次脳機能障害・パーキンソニズムを呈する者、歩行やリーチに支障をきたす外科疾患を有する者とした。事前調査項目として、麻痺の程度(Brunnstrom Recovery Stage:BRS)、MMSE、肩亜脱臼の有無を調査した。上肢のBRSは、Ⅱ1名・Ⅲ5名、Ⅳ4名、Ⅴ5名だった。

 測定項目はTimed Up and Go(TUG)テスト、リーチテスト(前方)、アンケートを実施した。TUG・リーチテストに関しては、(a)非装着条件(b)体幹固定型アームスリング装着条件(c)三角巾装着条件の3条件とし、実施する順番はランダムに行った。アンケートは、各動作終了後に、装着感、実施しやすさについて、3条件における順位付けをしてもらった。

 解析方法は3条件に対しTUG所要時間、リーチ距離は、多重比較検定(対応のあるt検定後ボンフェローニ補正)を行った。なお、アンケートは単純集計及びχ2検定で検討した。有意水準は5%とした。

【結果】

 TUG、リーチ距離は3条件間で有意な差を認めなかった。アンケートでは、三角巾装着条件に比べ、体幹固定型アームスリングが有意に実施・装着感が良いと答えた(p=0.023)。他の条件間は差を生じなかった。単純集計だが、上肢麻痺軽症例(BRSⅤ以上)多くでは、非装着条件が好適と答えた。一方で重~中等度(BRSⅣ以下)のケースは、固定型アームスリング装用の方が、歩行やリーチをやりやすいと答え、重症度で異なる傾向が判明した。

【考察】

 脳卒中患者の歩行やバランス評価では、3条件間でパフォーマンスに有意差は認められなかった。今回の対象者の多くは歩行能力が高く、TUGテストも監視下で実施可能だったためだと考えられる。一方で、主観的な実施・装着感については、上肢麻痺の中等度以上の場合は、アームスリング装着が好印象であり、上肢を体幹に固定することで歩行や動作がしやすくなる傾向にあった。したがって、中等度以上の脳卒中片麻痺患者において、体幹固定型アームスリング装着は効率的な歩行や動作を獲得するための、治療介入手段として考慮すべき手段になり得る可能性が伺えた。

【倫理的配慮,説明と同意】

なお、本課題は主旨を理解し、書面にて同意を得られた入院患者に実施した。事前の倫理手続きとして、弘前脳卒中・リハビリテーションセンター倫理委員会(承認番号:17A001)による許可を受け実施した。開示すべきCOIはありません。

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