理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-B-15-7
会議情報

ポスター
慢性期脳卒中患者の歩行に対する自己効力感の実態の解明と関連項目の調査
大石 優利亜森岡 直輝松崎 英章寒竹 啓太小田 太士髙橋 真紀
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

はじめに・目的

 近年の歩行障害者を対象とした研究では、歩行に関係する心理的概念として歩行に対する自己効力感(Self Efficacy:SE)が注目されている。国内でも牧迫らによって、高齢者における歩行の自信の程度を把握する指標として,日本語版-改訂Gait Efficacy Scale(mGES)が開発され、良好な信頼性および妥当性を有する評価として報告されている。さらに、地域在住高齢者の歩行に対するSEは転倒恐怖感や歩行能力との関連が確認されている。しかしながら、これらの先行研究での対象は地域在住高齢者に限られており、歩行障害を主症状とするような慢性期脳卒中患者を対象とした歩行に対するSEを評価した報告はほとんどない。そこで本研究では、慢性期脳卒中患者の歩行に対するSEの実態を明らかにし、各身体機能との関係性を調査した。

方法

 本研究は、脳卒中後片麻痺上肢の治療目的で平成28年11月から平成30年5月までに入院した、慢性期脳卒中患者を対象に行われた横断的観察研究である。対象は、発症後6ヶ月以上経過した、慢性期脳卒中患者で、高次脳機能障害や認知機能障害を認めず、歩行補助具の有無に関わらず歩行が自立しており、基本的日常生活活動が自立している者とした。基本的属性として年齢、性別、罹患期間、転倒歴、認知機能、手段的日常生活活動を聴取した。評価は入院時に行い、主要評価項目はmGESとした。副次評価項目は歩行能力として、最大速度での10m歩行試験(10MWT) 、6分間歩行試験(6MWT)、バランス能力として、Barg Balance Scale(BBS)、日本語版Mini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)とした。基本属性、各身体機能指標との関係性はSpearmanの順位相関係数を用いて調査した。統計解析はEZR version1.37を使用した。

結果

  対象者は慢性期脳卒中患者8名(男性5名、女性3名)で、年齢57.6±11.1歳、罹患期間4.5±2.7年、転倒歴有り3名、無し5名、長谷川式スケール(HDS-R)29.0±1.0点、Frenchay Activities Index(FAI)19.3±5.0点であった。mGESスコアは48.3±21.0点であった。mGESと年齢(r=-0.73、p=0.03)、10MWT(r=-0.78、p=0.02)、6MWT(r=-0.74、p=0.03)、Mini-BESTest(r=-0.75、p=0.03)にて有意な相関を認めた。

考察

 先行研究ではmGESと転倒に関する恐怖感や歩行能力、バランス能力との関連を認めており、本研究ではmGESと年齢、10MWT、6MWT 、Mini-BESTestとの間に有意な相関が認められた。これより、慢性期脳卒中患者において歩行に対するSEとの間に年齢、歩行能力、バランス能力が関連していることが示唆された。

 本研究の課題として、対象者が不足していたことや、横断的な研究であるため、因果関係の特定に至ることが出来ていないことが挙げられる。今後は対象者を増やし、mGESと各評価項目との因果関係を明らかにしていく必要があると考える。また、将来的に歩行に対するSEを向上するための介入方法の検討を行っていきたいと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は当院倫理委員会で承認を得て、対象者に対する文書及び口頭による説明を行い、同意を得て行われた。

 

著者関連情報
© 2019 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top