主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに・目的】
レンズ核線条体動脈(以下:LSA)領域のBranch atheromatous disease(以下:BAD)では、内包後脚や放線冠の下肢領域付近を損傷しているにも関わらず、退院時歩行機能の帰結が異なることは少なくない。先行研究では、BAD患者のMRI拡散強調画像(以下:DWI)を用いて、軸位に垂直方向に長い病変、より下部から障害される病変が歩行予後に関連していたという報告がある。しかし、側脳室体部及び基底核レベルの両方の脳画像を定量化し、歩行獲得レベルの違いを検討している研究は少ない。そこで、本研究はLSA領域のBAD患者を対象に、退院時の歩行獲得レベルの違いに関わる要因の差を、脳画像と歩行獲得レベルの違いに関わる可能性のある因子について比較検討することを目的とした。
【方法】
対象は平成26年4月から平成29年3月の間に、当院急性期もしくは回復期病棟から退院した脳梗塞患者で、LSA領域のみに水平断で3スライス以上梗塞域があった者とした。2回目以上の脳卒中者、多発脳梗塞がある者、発症前Functional Ambulation Categories(以下:FAC)5以外の者を除外し、データ不備のない29症例(男性19名、女性10名、平均年齢70.9±7.0歳)とした。調査内容は①発症からリハビリ開始日数②発症から離床達成日数③リハビリ開始時・退院時Brunnstrom Recovery Stage(以下:BRS)下肢項目、Stroke Impairment Assessment Set(以下:SIAS)下肢項目(股、膝、足)④発症から歩行練習開始日数⑤年齢⑥性別⑦側脳室体部・基底核レベルの梗塞域の内側比(内側への拡がり)、横径比(横幅の大きさ)、下側比(下側への拡がり)、縦径比(縦幅の大きさ)とした。梗塞域の定量化方法は、発症直後(運動麻痺進行例は梗塞域拡大が収まった時)のDWIを用い、大脳縦列に引いた直線の前後50%付近で大脳縦列に垂直に交わる直線L1を引き、始点を側脳室レベルではL1上において側脳室外側と交わる点、基底核レベルでは大脳縦列線とL1の交わる点とし、脳実質端までの距離(A)、梗塞域内側端までの距離(B)、外側端までの距離(C)を求め、内側比B/A×100、横径比(C-B)/A×100にて算出した。下側比と縦径比は、始点を側脳室後角端とし、側脳室前角端までの距離(D)、梗塞域下側端までの距離(E)、上側端までの距離(F)とし、下側比E/D×100、縦径比(F-E)/D×100にて算出した。群分けは退院時のFAC5を(病前歩行)獲得群、FAC4を未獲得群とし、上記項目①〜⑦について比較検討した。統計解析にはR.2.8.1にてマン・ホイットニー検定、2標本t検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
獲得群は21例、未獲得群は7例であった。開始時・終了時BRS、開始時SIAS股・膝、退院時SIAS股・膝・足で優位差を認めた。
【考察】
急性期理学療法では歩行の予後予測などで脳画像を用いることがあるが、LSA領域のBAD患者に対してはリハビリ開始時の臨床所見(下肢BRS・SIAS)が退院時の歩行獲得レベルに影響する可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会の承認を受け実施した(受付番号:541)。個人情報保護法に従い,個人情報の取り扱い方に十分に留意し、院外・院内医療情報管理区域外への情報の持ち出しはせず、個人が特定されないように厳重に配慮した。また、本研究は後方視的研究のため、対象者への研究の同意・説明は割愛し、「臨床研究に関する倫理指針」を遵守した。