理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-S-1-4
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頸髄不完全損傷者における身体機能の回復が思春期の障害受容に与える影響
市川 春菜渡部 勇石河 直樹
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キーワード: 脊髄損傷, 歩行, 思春期
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抄録

【はじめに・目的】

脊髄損傷は受傷前後の身体的ギャップや社会的役割の変化などに対する様々な混乱が生じ、受傷後数年が経過しても混乱が継続される場合がある。自己を受け入れ、自己実現に向けて適応していくことが重要であり、その方法の一つが社会交流や機能回復に向けた運動である。今回、思春期の慢性期脊髄損傷者に対し、脊髄損傷専門のトレーニング施設において継続的なトレーニングを実施した。その結果、機能回復のみならず精神面において大きな変化をもたらしたため、その経過を考察を踏まえて報告する。

【症例紹介】

10歳代、男性、2014年8月、水泳の飛び込みで受傷、第5頸髄不完全損傷と診断された。フランケルC1である。特に左半身の随意運動が乏しく、起立性低血圧症状が認められ、椅子座位の状態を長時間保つことが困難であった。障害受容が出来ておらず、「車椅子の自分が嫌」という気持ちから外出や高校への進学もできなかった。母親へ「死にたい、殺してくれても良いよ」との発言も度々みられ、左手指を噛むなどの自傷行為もみられていた。

【経過】

2015年7月からトレーニングを開始した。起立生低血圧症状が強く認められ、立位や歩行練習が困難な状態にあったが、徐々に緩和され2016年8月頃から肘支持型歩行器での立ち座り動作や歩行練習、屋内(自宅)での自主練習が可能となった。2017年、上半身の軽度介助で両側ロフストランド杖歩行が可能となった。2017年11月頃、両側ロフストランド杖にて屋内約420m、屋外約330m連続歩行が可能となった。2018年5月現在は、当施設から両側ロフストランド杖歩行にて花見をする、ファミレスへ行く等、本人の意思で外出する機会が増加した。

【考察】

思春期である本症例にとって知覚、運動障害、および合併症や二次障害など永続的な身体機能の障害は受け入れがたいものであり、心理的な面においても障害受容が困難な状況に置かれていた。両側ロフストランド杖歩行の獲得を境に「外出したい」「海に行きたい」等の発言が徐々に増加した。さらに夏には海に行こう、家族で旅行に行こう等の前向きな発言がみられるようになった。また同時に車椅子でもプールで水泳をする、デパートに行くなど行動範囲が広がった。当施設は症例と同年代の脊髄損傷者も多くトレーニングに励んでいる。このような環境は当事者同士のライバル意識や時には良き相談相手として精神的な支柱となった事も、本症例の希望や活力となったと考えられる。今後も実用的な歩行の獲得を目指すとともに、まずは本症例が社会参加していけるよう促しを続けていきたい。そして本人が明確な目標を持ちそれをサポートできる環境を提供することが最も重要であると本症例を通して経験した。

【倫理的配慮,説明と同意】

本人・家族にヘルシンキ宣言に沿って説明の上、同意書への著名を得た上で実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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