主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに・目的】
硬膜外膿瘍は神経障害が一旦生じると、時として重篤かつ不可逆的な神経障害を発現すると報告されており、下肢に障害が出現した場合、歩行訓練の施行に難渋する事が多い。近年エルゴメータ運動が両脚の伸筋と屈筋による交互性運動であること、下肢の伸展が主として歩行の推進力を生みだしていること、さらに回転動作のペースが歩行動作と類似していることから、歩行訓練としての意義が注目されている。その中で三菱電機エンジニアリング社製のストレングスエルゴ(S-Ergo)は姿勢調整機能やペダルアシスト機能を持った多機能のエルゴメータで、座位や歩行が困難な患者でもペダリング運動の遂行が可能となる。今回頸髄硬膜外膿瘍にて四肢麻痺を呈した症例に対し、早期からS-Ergoを使用した積極的な訓練を行う機会を得たので以下に報告する。
【症例紹介】
58歳男性。突如、左背部痛、右上下肢脱力著明となり、翌日近医受診。頭頸部MRIにてC4/5の膿瘍形成と脊柱管圧排を認め当院に救急搬送。頸髄硬膜外膿瘍、Heuser病期分類Ⅳ期と診断され同日頸椎前方固定術、ドレナージ施行となった。
【経過】
術後2日目から理学療法開始。American Spinal Injury Association(ASIA)運動スコア:5点(右上肢0点、左上肢5点、下肢0点)。ASIA Impairment Scale(AIS):Grade A。Barthel index(BI):0点。安静度Head-up30°であり床上にて関節可動域訓練、呼吸機能訓練中心に実施。徐々に下肢痙性出現。術後11日目安静度制限無しとなりリクライニング車椅子乗車。術後12日目からTilt tableにて起立訓練。術後20日目から両側長下肢装具装着下で平行棒内起立訓練。術後26日目から免荷式トレッドミル歩行訓練を施行。しかし疲労感、頸部痛強く過負荷となっていたため、術後27日目からS-Ergoを使用しペダリング動作による下肢機能訓練を開始。術後32日ASIA運動スコアは50点(右上肢7点、左上肢19点、右下肢5点、左下肢17点)、AIS:Grade D。基本動作は起座:中等度介助、端坐位:軽介助、移乗:中等度介助、起立・立位:最大介助。BI:15点となり術後33日にリハビリ転院となった。
【考察】
中枢神経障害により上位中枢から脊髄神経機構に対する出力が低下している患者において、 脊髄可塑性の誘導、機能回復を促すために皮質興奮性と末梢からの周期的な感覚入力が重要であると報告されている。また脊髄硬膜外膿瘍のHeuser病期分類Ⅰ~Ⅲ期に手術を行えば、機能的予後は良好であるが、Ⅳ期では麻痺完成後48時間以降の手術では救命は可能も麻痺の回復は1例も無く、発症24時間以内の手術でも完全な回復が得られた例は25%のみとされている。本症例における運動機能の回復は発症24時間以内に手術施行できたこと、早期からS-Ergo使用した周期的な感覚入力が行えたことが脊髄可塑性、機能回復に影響を与えた可能性があると考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき個人情報について匿名性および秘密保持を行った。