理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-S-1-6
会議情報

ポスター
頚髄損傷後、強い起立性低血圧のため寝たきり状態だった患者が、長時間の頭部低角度位を維持してから挙上する方法で離床が可能となった症例。
石川 太一西山 勝彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに・目的】

従来より起立性低血圧に対し頭部挙上を徐々にすることは言われている。しかし具体的な時間や角度を報告したものは少なく、まして頭部挙上に際し特別な配慮が必要とする報告は見当たらない。強い起立性低血圧がありながら、長時間離床が可能となった症例の血圧の管理と特徴を報告する。

【症例紹介】

70歳代、男性。転落により受傷。C3-6の非骨傷頸髄損傷によりFrankel A。Modified Ashworth Scale 3 。起立性低血圧のため離床困難で発症より約1年半後(以下X日)、私に担当変更された。

【経過】

X+9病日、チィルトリクライニング車椅子座位を開始。X+43病日、頭部20°位で車椅子離床しバイタルサイン(以下BP)130/70。40分かけて徐々に頭部60°挙上、BP71/50 まで低下したため訓練終了。このように頭部挙上は困難だった。X+119病日、ともかく座位時間の延長を図った。頭部低角度で血圧を3時間、維持出来、その後、頭部挙上しても血圧は下がらなかった。これにより一旦、長時間の低角度座位をすることが挙上に必要と気がついた。X+140病日、臥位BP86/65 。頭部20°位、BP105/55。60分後、 頭部50°位へ挙上、BP110/75。120分経過後も維持出来た。このように頭部20°位を60分維持してから頭部挙上するという管理方法で、以後、5~6時間、日中を車椅子上で過ごすことが可能となり食事、PC訓練、立位訓練などを行えるようになった。X+183病日、60分という比較的長時間の低角度座位が本当に必要なのか、また初期と比べ起立性低血圧に改善はないのか? 患者と話し合い短時間での頭部挙上を試みた。5分で30°へ挙上。しかし初期同様に血圧は下降。他日も試みたが結果は同様だった。

【考察】

生体を臥位から立位へ姿勢を変化させると血液は下肢や腹部内臓系へ移動する。この血行動態の変化に対し、圧受容器反射系に異常がある場合、血圧低下をきたすことを起立性低血圧と言う。(失神の診断・治療ガイドライン2012年)第5胸髄より高位の脊髄損傷者では大内蔵神経が切断されるため、起立性低血圧は発症頻度が高い(田島)。ベッド上、30度という比較的低い角度でも筋交感神経活動は活発になる(田島)。症例はC3損傷 で血圧は頭部20°では安定したが、僅かな挙上で下降した。これは6ヶ月訓練し、安定して車椅子離床できるようになっても変わらなかった。このことは圧受容器反射系の破綻を示す証拠であろう。しかし症例は一旦、頭部低角度位を長時間に保てば離床することが可能であった。血圧は,神経性のみで調節されているわけではない。その他に液性や局所性でも調節されている。特に液性調節は神経性に対し遅延性に血圧を調節する。低角度を1時間、保つ必要があったのは遅延性調節の代償が作用したことが想起された。

本症例は強い起立性低血圧に苦しむ患者でも離床出来るひとつの方法を示したものであり、我々の療法士の取り組み方を変える可能性があると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者には口頭にて説明し、書面にて同意を得た。なお本発表は当院倫理委員会 にて承認を得ている。

著者関連情報
© 2019 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top