理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-026
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口述発表
東日本大震災から7年,南相馬市における被災高齢者の生活再建について
玉枝 香澄岡崎 可奈子熊谷 大河村 善信斎藤 史織
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抄録

【はじめに・目的】「浜通り訪問リハビリステーション」は,2011年12月に制定された東日本大震災復興特別区域法により,療法士のみで運営することが許可され,翌年11月に設立された業所である. 東日本大震災,および福島第一原発事故から7年が経過し,避難指示区域も徐々に縮小されている.しかし福島第一原発から20㎞圏内に位置する南相馬市では現在も避難生活を強いられている方や長期間の避難生活を経験した方が多く見受けられる.そこで今回,当事業所における利用者の特徴および,精神の健康と身体的・社会的アセスメントの関連性を調査し,被災された被介護者の生活再建における課題について考察したので報告する.

【方法】本調査は2018年1月から3月の間で問診及び測定を実施した.調査対象者は,当事業所の利用者の中で同意の得られた74名であった.このうち,HDS-Rの得点が20点未満の者を除く54名(対象者の72.3%)を解析対象とした.評価項目のうち,精神的健康の指標であるKessler6(以下,K6)の得点(0点~24点)をハイリスクのカットオフ値(9点)で高値群・低値群の2群に分け,避難回数,避難期間,HDS-R(20点~30点),LSA(0点~120点),転ばない自信(10点~40点),人との繋がり(0点~30点)について2群間で比較した.

【結果】女性の比率は高値群84%,低値群54%であった.対象者のうち避難経験がある割合は78%であり平均避難回数は高値群3.44回,低値群2.65回,平均避難日数は高値群998.6日,低値群688.1日であった 各群の平均値は以下の通りである.LSAは高値群26.8点,低値群26.5点,人との繋がりは両群ともに7.2点,転ばない自信は高値群18.9点,低値群22.6点であった..全ての結果において標準偏差の値が大きく統計学的に有意な差はみられなかった.

【考察】避難生活は放射能の不安による外出機会の減少,家族離散や介護者不在,生活不活発病,近所づきあいや趣味の消失等の要因となり精神的・社会的健康が著しく低下すると言われている.今回の調査からも,高値群の方が転居回数は多く避難期間が長期化している傾向がみられた.転居回数が多いことは他者との交流が得にくく避難者の孤独化が進みやすいと推測される.そのため,早期にコミュニティーを構築する必要があり,健康サロンや通所介護施設などの地域資源を利用することが有効ではないかと考える被災高齢者を地域で支えていくコミュニティー作りが生活再建には必須であり,セラピストが積極的に行政や福祉サービスと連携を図ることが重要である.

【倫理的配慮,説明と同意】研究について口頭で説明し,本人及び家族から同意を得た上で調査を行った.対象者の負担軽減のため,過去に実施された多くのアンケートとの重複を避け,必要以上の詳細な調査を行わないこととした.調査の途中で対象者が不快な思いをした場合や答えたくない内容が含まれる場合は即刻中止し,調査の継続を辞退することが可能である旨を伝えた.また,回答後であっても研究の辞退を申し入れることを可能とした.

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© 2019 日本理学療法士協会
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