主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
p. H1-26
我が国における大腿骨近位部骨折の発生率は一部の年齢層で低下傾向にあるが,発生数は一貫して増加していると報告されている。原発性骨粗鬆症の診断基準によると低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を否定した上で,立った姿勢からの転倒か,それ以下の外力によって発生した大腿骨近位部骨折は全例骨粗鬆症である。さらに,骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版(以下ガイドライン)によると,大腿骨近位部骨折は全例骨粗鬆症薬物治療の適応である。全例に治療が必要な理由には,生命予後が悪い骨折である,反対側が骨折する,両側骨折するとさらに生命予後が悪化するなどがあげられるであろう。では,どの薬剤を選択すべきであろうか? 大腿骨近位部骨折発生患者あるいはその既往を有する患者では反対側の同骨折を予防する必要があるので,ガイドラインに記載されている骨粗鬆症治療薬の有効性の評価一覧における大腿骨近位部骨折発生抑制効果Aの薬剤から選択するべきであろう。アレンドロン酸,リセドロン酸,デノスマブの3剤が骨粗鬆症の保険適応を有しているが,ガイドライン発表以降に上市されたゾレドロン酸もA評価に値する薬剤である。従って,大腿骨近位部骨折患者には,アレンドロン酸,リセドロン酸,デノスマブ,ゾレドロン酸の4剤のいずれかを投与すべきである。
一方,大腿骨近位部骨折と同様,立った姿勢からの転倒か,それ以下の外力によって発生した椎体骨折も全例骨粗鬆症である。さらに,ガイドラインによると椎体骨折も全例骨粗鬆症薬物治療の適応である。椎体骨折も生命予後を悪化させる骨折であり,骨折数が増えるにつれて更に生命予後が悪化するため,全例に治療が必要である。では,どの薬剤を選択すべきであろうか? 椎体骨折発生患者あるいはその既往を有する患者では更なる新規椎体骨折を予防する必要があるので,ガイドラインに記載されている骨粗鬆症治療薬の有効性の評価一覧における椎体骨折発生抑制効果Aの薬剤から選択するべきであろう。エルデカルシトール,窒素含有ビスホスホネート製剤,SERM,テリパラチド,デノスマブの10剤が骨粗鬆症の保険適応を有しているが,ゾレドロン酸もA評価に値する薬剤である。
では,脆弱性骨折の既往のない一般人の中から薬物療法が必要な患者をどのように見つけ出せば良いのだろうか? ガイドラインに,脆弱性骨折の既往がない場合,骨密度がYAMの70%以下または-2.5SD以下すなわち原発性骨粗鬆症の診断基準に合致した場合と,骨密度がYAMの70%より大きく80%未満でなおかつ大腿骨近位部骨折の家族歴あるいはFRAXR®の10年間の骨折確率(主要骨折)が15%以上ある場合に薬物治療開始の適応であると記載されている。従って,脆弱性骨折の既往のない一般人に対しては,骨密度を測定しないと治療対象患者を見つけ出すことができないということになる。「とりあえず骨密度」を実践して頂き,一次骨折予防を積極的に推し進めるべきであろう。では,脆弱性骨折の既往のない治療対象患者に対する薬剤はどのように選択したら良いのだろうか?骨密度が低いということが治療対象患者としての条件になっているので,ガイドラインに記載されている骨粗鬆症治療薬の有効性の評価一覧における骨密度増加効果Aの薬剤から選択するべきであろう。椎体骨折抑制効果Aの薬剤にエストラジオールとエチドロン酸が加わり,全部で13剤の中から選択することになる。では,この13剤の中からどのように薬剤を選択したら良いのだろうか? 近年,骨粗鬆症領域にもGoal-Directed Treatmentという考え方が導入されている。薬剤によって異なるものの大腿骨頚部,大腿骨近位部あるいは腰椎骨密度が-2.5SDを越えればゴールとしようというものである。これを参考にして薬剤を選択するのも一つの方法であろう。