主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【目的】変形性膝関節症(OA)に対し人工膝関節全置換術(以下TKA)が施行される症例は近年高齢化しており、術前にバランス能力や移動歩行能力が低下した運動器不安定症(以下MADS)の合併症例が増加している。TKA術後1年の患者満足度に年齢が影響を及ぼす事は報告されているが、術前MADSの合併が術後機能改善に及ぼす影響は明らかではない。本研究では、膝OAに対するTKA症例で、術前MADSの合併の有無により、TKA術後早期の運動機能、関節可動域、疼痛を比較することである。
【対象と方法】対象は2016年4月~2018年3月で、膝OAに対して片側のTKAが施行された43例(基本情報:女性38例、男性5例、年齢76.5±5.4歳、体重60.5±10.7kg、BMI26.6±3.8、入院日数29.2±6.6日)である。MADSは、開眼片脚立位保持時間(以下ST)が15秒未満、Timed Up & Go テスト(以下TUG)11秒以上のいずれか一つ以上で診断される。術前評価よりMADS群29例と非MADS群14例に分けた。運動機能を術前、術後2週、退院時に10m歩行時間(以下10m)、TUG、術側STで計測した。さらに、術前、術後1、2週目、退院時に膝関節屈曲可動域(以下屈曲ROM)を計測し、術後1、2週目にNRSで評価した疼痛スコア(以下pain)を記録した。2群間の比較には、正規性が認められる項目はunpaired-t検定、正規性が認められない項目および順序尺度はMann–Whitney U検定を使用した。各群内での経時的運動機能の比較にはFriedman検定を使用した。(P<0.05)
【結果】基本情報に有意差を認めなかった。運動機能評価では2週目の10mを除き、術前、2週、退院で非MADS群が有意に良好であった(P<0.05)。Painは術後1、2週目で非MADS群が有意に高かった(P<0.01)。屈曲ROMに有意差を認めなかった。経時的変化では、MADS群では2週目の10m・TUGに有意な増加を認めた(P<0.01)がST には有意差を認めず、退院時には全項目で有意差を認めなかった。一方、非MADS群は術後2週目の10mとTUGは有意に増加し、STは低下を認めた(P<0.01)が、退院時には有意差を認めなかった。
【結論】本研究結果により、非MADS群の運動機能は術前から退院までMADS群に比べて良好な値を示した。MADS群では術後2週目の10mとTUGが低下するものの、退院時は入院時と同じ値まで改善したが、非MADS群は2週目に全ての運動機能が低下したが、同様に退院時は入院時と同じ運動機能にまで回復していた。より術前運動機能の高い非MADS群は、手術侵襲により術後2週目では、全ての運動機能が術前より低下していたが、術後早期の疼痛が強い傾向が影響していたと考えられた。術後早期の疼痛コントロールや、リハビリ実施にあたり、患者に術後2週で一旦低下した運動機能が術後1ヶ月程度で術前の運動機能レベルまで回復することを事前に説明することが、術後早期のリハビリ意欲の向上には必要である。
【倫理的配慮,説明と同意】製鉄記念広畑病院倫理委員会で承認を得た。(JIMU H28-0028)