理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1-P-D-4-1
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ポスター演題
人工膝関節全置換術後における退院後1ヶ月時の歩行時痛に影響する要因の検討
小池 祐輔対馬 栄輝石田 和宏木村 正一森 律明西尾 悠介田中 大介
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キーワード: TKA, 歩行時痛, 膝関節伸展角
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抄録

【はじめに・目的】

 変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)は,除痛やQOLの向上など安定した成績が報告されている.しかし,入院期間中は膝関節機能が良好な経過を辿って退院に至った症例でも,退院後初回診察時(退院後1ヶ月)に歩行時痛が悪化する症例をしばしば経験する.そこで,退院後1ヶ月時の歩行時痛に影響する因子を探索した.

【方法】

 2015年9月~2017年7月のTKA後患者のうち筆頭演者が理学療法を担当した65例中データを完備した30例(平均年齢は74.6歳(58歳~88歳),性別は女性25例,男性5例)を対象とした.認知機能の低下,術後せん妄を認めた症例,リウマチや外傷後のTKA症例は除外した.これらの症例に対し,Body Mass Index(BMI),在院日数,杖歩行自立までの日数,歩行時痛(Visual Analogue Scale;VAS),大腿周径(膝蓋骨直上),関節可動域(術側膝関節屈曲・伸展,足関節背屈,非術側膝関節伸展),10m最大歩行時間を評価した.測定は術前,退院時,退院後1ヶ月時とした.全症例とも後療法は翌日より理学療法開始,術後3週間で独歩または杖歩行での退院とする当院クリニカルパスに準じて行えた.退院後は自主的トレーニングを個別に指導し,外来通院による理学療法は行っていなかった.

 統計解析は,従属変数を退院後1ヶ月時のVAS,独立変数をその他の検討項目としたステップワイズ法による重回帰分析を適用した.有意水準は5%とした.

【結果】

 VASは術前65.5±25.6mm,退院時21.3±15.1mm,退院後1ヶ月時17.7±19.5mmであった.術側膝伸展角は術前-10.8±6.8°,退院時-1.3±5.9°,退院後1ヶ月時-4.1±6.1°であった.重回帰分析の結果,退院後1ヶ月時の術側膝関節伸展角(標準偏回帰係数0.41)のみが選択された(p≦0.05,R2=0.17).

【結論】

 術側膝関節伸展角の悪化は,荷重時における膝関節へのメカニカルな負担を増加させるために,歩行時痛に影響したと推察する.以上より,TKA後は,膝関節屈曲角のみならず膝関節伸展角改善にも着目すべきであると考える.また,今後退院後の術側膝関節伸展角に影響する要因を明らかにするためには,歩容や隣接関節の機能,下肢アライメントを含めた多面的な評価が必要であると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

既存のデータを用いる観察研究であり,対象から同意を得ることが不可能であるため簡略化した.プライバシーを守り他の目的にしないことを前提に研究データを保管した.また,本研究の結果により今後対象にとって間接的な利益となる可能性がある.必要な評価を利用した後ろ向き研究であるため,不利益は予測されない.

  なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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