主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】浮き趾と高齢者のバランス能力との関係性についての報告が近年増加している。変形性膝関節症を有する高齢者では膝関節の変形に加えて、外反母趾などの足部の機能障害を有することが多い。人工膝関節全置換術(TKA)は人工股関節全置換術と比べて高齢者の割合が高く、人工関節レジストリの発表でも75歳以上の後期高齢者が主であり、浮き趾を有する患者は一定数存在すると考えられる。本研究の目的は、TKAを施行した患者の浮き趾と術後バランス機能改善に及ぼす影響は明らかにすることである。
【方法】対象は、2017.3~2018.2までにTKAを施行し回復期病棟に入棟した女性患者28例(平均年齢77.5±7.1歳、Co-morbidity index(CMI) 2.2±2.5点、術側片側19例、両側9例)を対象とした。入棟時の術後日数は25.7±7.9日であった。重心動揺計(住友理工株式会社製、「転倒リスク発見システム」)を用いて静止立位時の足圧分布から両側足部の浮き趾の総数を評価した。対照群として整形外科疾患を有しない外来心リハ患者11名(平均年齢67.5±6.3歳、CMI 2.6±2.7点)を評価した。また、TKA患者においてTUG改善率(入棟時~退院時:約3週間)を従属変数とし、入棟時の浮き趾数、健側・患側膝伸展筋力、健側・患側の股関節外転筋力および術側膝伸展ROMを独立変数として、ステップワイズ重回帰分析を行い影響因子の抽出を行った。なお、両側同時TKAを行った患者は膝伸展筋力が高値である側を健側として扱った。
【結果】TKA患者の浮き趾数は2.5±2.6、対照群は5.5±3.2と外来心リハ患者で有意に多かった。TKA患者のTUG改善率は40.9±47.2%、健側および患側膝伸展筋力(健0.33±0.10、患0.19±0.05 kgf/kg)、健側および患側股関節外転筋力(健1.20±0.27、患0.65±0.23 Nm/kg)、術側膝伸展ROM -4.8±6.2°であった。TUG改善率への有意な影響因子は、術側股関節外転筋力のみであった。
【結論】TKA患者の浮き趾数は2.5本であったのに対し対照群の浮き趾は有意に多く、整形外科疾患の有無に関わらず高齢者では浮き趾が多く存在することが示唆された。また、TKA患者の動的バランス能力改善に浮き趾数および膝関節機能は影響しておらず、術側股関節外転筋力のみが有意な影響因子として抽出された。浮き趾は屋外ADLが自立している対照群でむしろ多いことからも動的バランス能力の改善に直接的に影響せず、術側股関節外転筋力は方向転換などの回旋動作を要求されるTUGの改善において重要であることが示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は昭和大学藤が丘病院臨床試験審査委員会の承認(F2017C72)を得た。患者に説明と同意を得て、ヘルシンキ宣言に則り実施した。