主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
前庭機能障害患者はめまい感や姿勢不安定感を訴え、めまいに対する精神的不安から身体活動や社会参加の制限を招きQOLが低下することが知られている。また、身体活動量の低下、精神的不安、姿勢不安定性は相互に関連しており、めまいの悪循環から慢性化することが報告されている。しかし、これらの項目は主観的に評価されており、前庭障害患者における客観的な身体活動は明らかではない。本研究の目的は、前庭障害患者と健常者の身体活動量を客観的に評価し、前庭機能障害患者と健常者における身体活動量の違いを明らかにすることである。
【方法】
対象は一側性前庭機能障害患者(患者群)28名および健常成人(健常群)28人であった。取り込み基準は3ヶ月以上めまいが続いており、カロリックテストにて左右の前庭機能に40%以上の非対称性が認められるものとした。また、メニエル病、脳血管疾患、神経筋疾患、精神疾患などの平衡機能やめまいに影響を与える疾患は除外した。
活動量の計測はActigrph社製ActiSleep BT Monitor を使用し、非利き腕の手首に1週間装着した。活動量の解析はActilifeを使用し、座位・臥位時間(1MET以下)、軽い身体活動時間(1-3METs)、中等度以上の身体活動時間(3METs以上)、総身体活動時間(軽い身体活動と中等度以上の身体活動の合計)の1日の平均時間を算出した。
統計にはSPSSを使用し対応のないt検定にて、前庭機能障害患者と健常人におけるそれぞれの活動量の平均の差を比較した。有意水準は5%ととした。
【結果】
患者群は健常群と比較して座位・臥位時間が有意に長く、また、軽い身体活動時間と全身体活動時間が有意に短かった。しかし、中等度以上の身体活動時間は、両群間で有意な差は認められなかった。
【結論(考察も含む)】
前庭障害患者は健常成人と比較して中等度以上の身体活動時間には違いが認められず、座位や臥位などの時間が長いことが明らかになった。しかし、中等度以上の活身体動時間に違いが認められなかったことから、掃除や洗濯など日常生活で必要とされる比較的強度の高い身体活動は維持されていたと考えられる。また、活動量計の装着部位が手首であったために、前庭機能障害患者が苦手とする頭部運動を含めた身体の動きが抑制され、主に上肢を使用して動いていた可能性がある。本研究において、身体活動の内容や不動になっている原因は不明であるため身体活動の詳細を明らかにし、さらに前庭機能障害患者が苦手とする頭部運動を含めた身体活動を計測し検証することが今後の課題である。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、日本福祉大学(人を対象とする研究)に関する倫理審査委員会の承認を得た上で、対象者には研究の趣旨を十分に説明し同意を得るとともに、個人情報の取り扱いには留意するよう配慮した。