主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに,目的】慢性痛診療において,患者を一人の個として捉え,生物心理社会モデルに基づく,多面的な評価および集学的アプローチが推奨されている。我々は平成23年より,多職種による痛みの教育と運動療法を組み合わせた,外来型ペインマネジメントプログラムを実施している。第52回日本理学療法学術大会において,プログラム前後の痛み,精神心理・運動機能の変化を年代別に検討し,高年群ではこれら全ての評価項目で有意な改善を認め,若中年群でも不安を除く全項目の有意な改善を認めたことを報告した。今回,プログラム終了時における痛みの主観的改善度に影響を及ぼす因子について,年代別の検討を行った。
【方法】対象は,平成23年10月から平成30年6月までに開催した本プログラム参加者121名とし,65歳未満の若中年群50名(平均年齢52.1歳),65歳以上の高年群71名(同71.6歳)に群分けした。1クール(週1回,全9回)の定員を5~7名とし,痛みの神経学的メカニズム,対処法,活動量のコントロール(ペーシング)などの教育と,ストレッチング,エルゴメーター,ヨガ,水中歩行などの運動療法を組み合わせ,医師,理学療法士,ヨガインストラクターによる指導を行った。プログラム前後に,痛みの強さ(Visual Analog Scale:VAS),生活障害度(Pain Disability Assessment Scale:PDAS),不安・抑うつ(Hospital Anxiety and Depression scale:HADS不安,HADS抑うつ),破局的思考(Pain Catastrophizing Scale:PCS),健康関連QOL(EuroQol 5 Dimension:EQ-5D)などの質問紙による評価と,長座体前屈(前屈),片脚立位保持(片脚立位),10mジグザグ歩行(10m歩行),起居動作テスト(起居動作),6分間歩行距離(6MD)などの計測を実施した。またプログラム終了時に,7段階による痛みの主観的改善度(1:非常に悪化~7:非常に改善)を評価した。プログラム前後における各評価項目の変化率を二群間で比較し,さらに痛みの主観的改善度を目的変数,上記評価項目の変化率を説明変数とする重回帰分析を実施した。
【結果】プログラム前後における各評価項目の変化率は,全項目において二群間の有意差を認めなかった。また痛みの主観的改善度の中央値は,両群ともに5(やや改善)であり,有意差を認めなかった。重回帰分析において,若中年群ではPCS,前屈,起居動作が,また高年群ではEQ5D,6MD,片脚立位が予測因子として抽出された。
【結論】本結果より,若中年群では破局的思考による回避行動が,運動機能低下,生活障害をもたらし,また高年群では,加齢をベースとした持久力,バランスなどの運動機能低下がQOLを低下させ,年代により異なる病態を呈していることが推察される。したがって,教育を中心とした心理社会的アプローチと,運動による身体的アプローチの比率,侵襲度,量などについては,年代に応じた構成が必要であると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】参加者は全て愛知医科大学痛みセンターを受診する患者であり,愛知医科大学医学部倫理委員会の承認(承認番号14-087)を得た後,事前に研究内容を説明し,参加同意を得て実施した。