主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
我々は人工膝関節全置換術(以下TKA)患者の術後3ヶ月までのフォローアップにおいて,2週までの疼痛と腫脹を抑制できれば,早期に筋力が向上し歩行速度が改善することを報告している.しかし,腫脹や疼痛を考慮して国内において長期的に術後経過を検討している報告はない.そこで本研究の目的は,TKA患者の筋機能の動態を経時的に腫脹や疼痛を考慮して解明することである.
【方法】
対象は,2015年〜2017年に当院でTKAを施行した48名のうち術後1年まで測定可能であった17名(平均年齢74.3±4.9歳,全て女性,KL分類Ⅲ:12名,Ⅳ:5名,機種PS型:15名,半拘束型:2名)とした.評価項目は歩行時痛(100mmVAS),周径(裂隙),等尺性膝伸展筋力(Nm/kg),等尺性膝伸展最大収縮時の内側広筋と外側広筋の筋電図積分値(μV),歩行速度(m/s)とした.測定時期は術前,術後2週,術後4週,術後3ヶ月,術後1年とした.統計学的解析は,反復測定による分散分析後にTukey検定を用い,統計学的有意水準は5%未満とした.
【結果】
歩行時痛(術前/術後2週/術後4週/術後3ヶ月/術後1年)は,53±30/21±23/14±19/8±16/8±21で術後全ての時点で有意な改善を認めた.周径は,33.9±2.2/35.8±2.4/35.6±2.4/34.8±1.7/33.9±2.0で術前と比べ術後2週・術後4週で低下・術後3ヶ月で増大,術後2週と比べ術後3ヶ月・術後1年,術後4週と比べ術後3ヶ月・術後1年で有意な軽減を認めた.等尺性膝伸展筋力は,0.80±0.3/0.33±0.1/0.53±0.1/0.77±0.2/0.97±0.2で術前と比べ術後2週・術後4週で低下・術後1年で増大,術後2週と比べ術後4週・術後3ヶ月・術後1年で増大,術後4週と比べ術後3ヶ月・術後1年で増大,術後3ヶ月と比べ術後1年で有意な増大を認めた.VMの筋活動は0.10/0.05/0.08/0.12/0.15で術前と比べ術後2週で低下し術後1年で増大,術後2週と比べ術後3ヶ月・術後1年で増大,術後4週と比べ術後1年で有意な増大を認めた.VLの筋活動は0.10/0.04/0.06/0.10/0.14で術前と比べ術後2週で低下・術後1年で上昇,術後2週と比べ術後3ヶ月・術後1年で上昇,術後4週と比べ術後3ヶ月・術後1年で上昇,術後3ヶ月と比べ術後1年で有意な上昇を認めた.歩行速度は0.90±0.2/0.75±0.2/0.91±0.2/1.05±0.2/1.16±0.2で術前と比べ術後2週で低下・術後3ヶ月・術後1年で上昇,術後2週と比べ術後4週・術後3ヶ月・術後1年で上昇,術後4週と比べ術後3ヶ月・術後1年で有意な上昇を認めた.
【結論(考察も含む)】
歩行時痛は術前と比較し,どの時期においても有意に低下した.歩行時痛以外の項目は術前と比較し術後2週で有意に低下したが,術後2週と比較し術後3ヶ月と術後1年で有意に向上した.これらの結果より,術後2週までの疼痛と腫脹を抑制できれば,早期に筋力が向上して歩行速度が改善し,さらに長期的にもパフォーマンスの向上に繋がる可能性があると考えられる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はツカザキ病院研究審査倫理委員会の承認(承認番号261013)を得た上で,全ての対象者に研究の主旨と内容を十分に説明し,研究への参加の有無により不利益が生じないことを説明した後に,書面にて同意を得た後に計測を行った.