理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-P-D-1-5
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ポスター演題
術後1週間の痛み改善度は1ヵ月後の痛みの予後と関連する
今井 亮太大住 倫弘石垣 智也森岡 周
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キーワード: 術後痛, 疼痛強度, 改善程度
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抄録

【はじめに、目的】近年,術後患者の入院期間は短縮され,術後痛管理が不十分に陥りやすくなっている.また,この術後痛の管理不足は慢性疼痛の発症に起因する(Perkins FM, 2000).そのため,理学療法の遂行において術後急性期の疼痛管理は極めて重要である.一般的に,術後急性期の疼痛強度の評価としてVisual Analogue Scale(VAS)やNumeral Rating Scale(NRS)が使用されている.しかしながら,これらの代表的な評価データは患者間のばらつきが非常に大きいため,ある一点の疼痛強度から症例の予後予測を行うことは困難である.こうした問題に対して,Chapmanら(2006)は術後1週間の痛み強度の値から改善の程度を算出することで,評価精度が高くなることを明らかにした.そこで本研究では,術後1週間の疼痛強度の経過から改善程度を算出し,術後1ヵ月の痛み強度の予後予測が可能かどうか検討した.

 

【方法】対象は橈骨遠位端骨折後に当院で手術を施行した59名(70.2±7.9歳)である.手術後1日目,3日目,5日目,7日目,1ヵ月後に,安静時および運動時の疼痛強度をVASで評価した.術後1日目から7日目までのVASの値を一次関数により近似させ(X:日数,Y:疼痛強度VAS),得られた近似式の傾き(=疼痛強度の改善程度)と切片(=術直後の疼痛強度)を算出した.また,術後1日目,3日目,5日目,7日目,1ヵ月後の安静時痛,運動時痛,傾き,切片の各々の関係を調べるためにSpearmanの順位相関係数を用いて統計処理した.有意水準は5%とした.なお,統計学的検討はSPSS v17.0を使用して行った.

 

【結果】安静時痛の傾きは-8.3±6.5(平均±SD),切片は51.2±24.7であった.運動時痛の傾きは-9.9±8.9,切片は70.6±24.9であった.80%の患者の一次関数が負の傾き,つまり疼痛強度が軽減していく傾向であったが,残りの20%の一次関数はX軸に対して水平,もしくは正の傾きであった.相関分析の結果,術後1日目,3日目,5日目,7日目の疼痛強度と,1ヵ月後の疼痛強度には有意な相関関係が認められなかった.しかし,1ヵ月後の安静時痛ならびに運動時痛は,一次関数の傾きと有意な相関関係を示した(r=0.56, p<0.01).

 

【結論(考察も含む)】術後急性期のある一点の疼痛強度の値からでは1ヵ月後の疼痛強度の予後予測は難しかったが,術後1週間の疼痛強度の改善程度を算出することで,予後を予測できる可能性が示唆された.術後1週間で予後予測が可能であれば,理学療法の遂行とともに術後痛管理を十分に行え,術後痛の遷延化を予防することができるかもしれない.

 

【倫理的配慮,説明と同意】本研究は河内総合病院倫理委員会の承認を受けた.また,個人情報の保護に関する諸法令及び世界医師会によるヘルシンキ宣言に基づいて対象に本研究の目的及び意義並びに方法,研究対象者に生じる負担,予測される結果等について十分に説明し,それらに理解が得られた上で自由意思に基づいて同意を得て実施した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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