主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
高齢者の代表的疾患の1つに腰部変性後弯症(lumber degenerative kyphosis;以下LDK)がある。LDKの臨床所見は慢性腰痛であり、起立および歩行時に漸増し、休息により軽減する間欠性腰痛性跛行が特徴としてあげられる。間欠性腰痛性跛行の原因の1つとして、歩行時の体幹前傾角の増加により腰部伸筋群の筋内圧が上昇し筋血流量が減少した結果生じる筋原性疼痛が考えられているが、歩行時体幹前傾角に関連する因子について、骨盤アライメントも含めた検討は少ない。そこで、本研究の目的は、歩行時体幹前傾角に関連する脊柱骨盤矢状面アライメントおよび体幹機能因子を検討することとした。
【方法】
対象は、2014年から2018年の間で十勝地方に在住し住民検診に参加した中高齢女性184名(平均年齢66.7±4.8歳)。評価項目は、脊柱骨盤矢状面アライメントとして全脊柱立位X線側面像による胸椎後弯角、腰椎前弯角、骨盤傾斜角、仙骨傾斜角、体幹機能項目として脊柱他動背屈域テスト(Prone Press up test、腹臥位から下肢・骨盤固定で上肢を使用して体幹を最大背屈させた時の床から胸骨頚切痕までの距離)、脊柱自動背屈域テスト(Back Extension Test、腹臥位から下肢・骨盤固定で上肢を使用せずに体幹を最大背屈させた時の下顎床間距離)、等尺性筋力計を用いた腹筋力および背筋力を測定した。歩行時体幹前傾角は、体表マーカーを第7 頸椎と第4 腰椎の棘突起に取り付け、固定したデジタルカメラにて撮影し、自然立位時、歩行時の体表マーカーのなす角の変化を計測した。方法は、歩行時体幹前傾角と各評価項目について統計的解析を行い、歩行時体幹前傾角に関連する因子を検討した。統計的解析は、歩行時体幹前傾角を従属変数、その他の評価項目を独立変数とするステップワイズ法による重回帰分析にて関連因子を抽出した。いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
歩行時体幹前傾角の関連因子として、骨盤傾斜角(標準偏回帰係数0.41、p<0.001)および脊柱自動背屈域テスト(標準偏回帰係数-0.17、p<0.05)が抽出された。
【結論(考察も含む)】
本研究では、骨盤傾斜角と脊柱自動背屈域テストが関連因子として抽出された。歩行時体幹前傾角に関連する因子として、先行研究では腰椎前弯角と脊柱自動背屈域テストが報告されている。本研究でも、先行研究を支持する結果となり脊柱自動背屈域テストの有用性を示す結果となった。骨盤傾斜角について先行研究では、骨盤後傾はsagittal vertical axis(SVA)を代償する機構として最も多く用いられると報告されている。本研究の結果から、静的な立位場面だけでなく、動的な歩行時に対しても骨盤後傾を代償的に用いている可能性が示唆された。今回の結果から体幹機能に加えて、骨盤の代償機能についても着目した評価と治療が重要と考えられた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り十分な配慮を行い、研究の趣旨および目的、研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシーの保護について、口頭と書面にて十分な説明を行い、同意を得た。