理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-P-B-3-4
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ポスター演題
胸郭側方偏位が歩行立脚期の荷重応答戦略に及ぼす影響
‐下腿傾斜動態の左右特性について‐
小室 成義安達 亮介本間 友貴柿崎 藤泰
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キーワード: 胸郭, 歩行, 下腿傾斜
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抄録

【目的】

臨床場面で観察される胸郭アライメントは骨盤に対して側方へ偏位していることが多く,過剰な例では歩行時の円滑な重心移動が阻害されやすいことを多く経験する。このような症例では,胸郭位置の偏りに対するパターン化した荷重応答を呈する。唯一床面と接している足部や足関節の動きは胸郭位置変化による質量偏位に依存し,同部位には定型的なパターンが生じる。しかし、歩行時の足部や足関節の動きは容易に捉えにくいため,我々は関連する下腿の動きを指標として観察することが有用であると考えている。従って,本研究では胸郭の側方偏位が歩行立脚期の下腿側方傾斜運動の左右差に与える影響について検討することを目的とした。

【方法】

対象は脊柱,下肢に整形外科的既往のない健常成人15名(平均年齢28±2.6歳,平均身長171.4±5.8cm,平均体重68.2±8kg)とした。測定機器は三次元動作解析装置VICON-MX(VICON社製)と床反力計(AMTI社製)を使用した。マーカー貼付部位は,剣状突起,Th10,両ASIS,両PSIS,両脛骨内外側上顆,両内外果の計14点とした。

 測定課題は安静呼気位での静止立位,自然速度での歩行とした。静止立位のデータより,骨盤中心点に対する胸郭中心点(剣状突起‐Th10間の中点)のX軸座標から胸郭側方偏位を定義し,左偏位群と右偏位群に群分けした。歩行データより,脛骨内外側上顆,内外果の4点から下腿セグメントを定義し,絶対空間座標における左右の下腿側方傾斜角度を算出した。床反力垂直方向成分より左右立脚期を算出し,立脚時間の50%で前半相と後半相に分け,それぞれを解析区間とした。各解析区間の始点と終点の角度差から変化量(下腿外傾角度変化量)を算出した。

 統計学的解析は,各解析区間における下腿外傾角度変化量の左右比較を対応のないt検定を用いて検討した。解析には統計ソフトウェアSPSS(IBM社製)を使用し,有意水準はそれぞれ5%未満とした。

【結果】

胸郭側方偏位は左偏位群13名,右偏位群2名となった。左偏位群において,立脚期後半相の下腿外傾角度変化量は右側18.2±3.9°,左側15.1±3.1°であり,右側が有意に大きかった(p<0.05)。

【結論】

胸郭左側方偏位を呈する例では,立脚期後半相において左側に比べ右側の下腿外傾運動が大きい傾向が認められた。胸郭左側方偏位は,体幹質量の偏りから歩行時の推進方向を左側に偏らせるため,足圧中心は左側で外方化し,右側では内方化しやすい環境になることが推測される。今回得られた結果にみられた運動から,下腿における筋活動を推察すると左側では足部内反筋,右側では外反筋の活動を強めるため,下腿側方傾斜角度の左右差が生じたものと考えられる。以上の結果から,胸郭左側方偏位を呈する例では左右で異なる荷重応答戦略を用いていることが示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は文京学院大学の倫理委員会の承認(承認番号:2017-0038)を得た後,対象者の同意を得て実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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