変形性膝関節症における理学療法の疼痛軽減効果の予測

-Clinical Prediction Rulesの開発-

抄録

【目的】

 Clinical Prediction Rules（CPRs）は効果が不十分な症例や病態が複雑な症例の臨床判断補助ツールとして用いられている．しかし，変形性膝関節症 (以下膝OA) 患者で理学療法の治療効果が不十分な症例の予測判断のためのCPRsは確立されておらず，臨床家は初期評価時に適切な臨床判断を行えていないのが現状である．本研究の目的は，膝OAにおける理学療法を実施する際のCPRsを確立することである．

 

【方法】

 対象は医療機関13施設からリクルートされ，膝OAと診断された176名 (男性：35名，女性：141名，平均年齢：70.6±9.0歳) とした．初期評価時に，年齢，Body Mass Index (BMI)，罹患期間，膝OA重症度 (K-L分類)，膝関節屈曲・伸展角度，疼痛強度 (Numerical Rating Scale：NRS)，能力障害 (Oxford Knee Score：OKS)，破局的思考 (Pain Catastrophizing Scale：PCS)，自己効力感 (Pain Self Efficacy Questionnaire：PSEQ) 及び身体知覚異常 (Fremantle Knee Awareness Questionnaire：FreKAQ) を評価した．また，NRS及びOKSについては理学療法実施3ヵ月後に再評価した．今回行う理学療法として，下肢関節可動域訓練や下肢筋力訓練を中心とした一般的な運動療法を実施した．統計解析には決定木分析 (Chi-square automatic interaction detection：CHAID) を用いた．CHAIDでは，理学療法実施3ヶ月後のNRSの改善効果量 (初期評価時から50%以上の改善) とOKSの改善指標 (30点以上) をそれぞれ従属変数とし，独立変数は初期評価時の年齢，BMI，罹患期間，K-L分類，膝関節伸展・屈曲角度，PCS，PSEQ及びFreKAQとした．統計解析にはSPSS Decision Treesを使用した．

 

【結果】

 膝OA保存療法例の本理学療法でのNRS改善予測モデルではFreKAQの1変数が有用であることが示唆された．本モデルでは，FreKAQが9点以下ではNRSが64%改善，FreKAQが10-18点ではNRSが40%改善，FreKAQが19点以上ではNRSが15%のみの改善であった．また，膝OA保存例のOKS改善予測モデルではFreKAQの1変数が採択された．本モデルでは，FreKAQが11点以下では100%がOKS30点以上，FreKAQが12-21点では76%がOKS30点以上，FreKAQが22点以上では33%がOKS30点以上であった．

 

【結論（考察も含む）】

 膝OAに対する理学療法を3ヵ月間実施した場合，初期評価時に身体知覚異常が強く認められると，痛みの改善や能力障害の改善が不十分であることが示唆された．この結果は，初期評価時における臨床判断の助けになると考えられる．FreKAQが19以上の場合，一般的な理学療法に加えて，身体知覚異常の改善を目的とした介入を考慮する必要がある．

 

【倫理的配慮，説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき，全ての対象者には本研究の研究内容，リスク，参加の自由等を十分に説明した上で書面による同意を得た．また，本研究は当院の倫理委員会による承認を得た上で実施した．