主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
人工膝関節全置換術(以下:TKA)の術後成績には、痛みに対する破局的思考などの精神的機能が関連する。Pain coping skills training(以下:PCST)は精神的機能に対して有効といわれているアプローチ法である。しかし、TKA後患者に特化したPCSTはなかったことから、我々は、「TKA術後版PCST」を開発し、実施可能性を報告した。
本研究の目的は、TKA後患者に対してTKA術後版PCSTを実施し、身体的機能、精神的機能への効果について検討することである。
【方法】
対象は初回両側同時TKAまたは片側TKA予定の者、本研究に同意が得られた者、とした。群分けは、性別を層とした層別ランダム化とした。評価時期は術前日および退院時とした。主要アウトカムは、破局的思考Pain Catastrophizing scale(以下:PCS)、副次アウトカムは、日本語版Western Ontario and McMaster Universities osteoarthritis Index(準WOMAC)、人工関節置換術の術後リハに対する自己効力感 Self-Efficacy for rehabilitation outcome Scale(SER)、疼痛 Numeric Rating Scale(以下:NRS)、歩行機能 Timed Up & Go Test(TUG)、等尺性膝伸展筋トルク、膝関節可動域(屈曲、伸展)、CRP値、とした。両群共に通常術後理学療法を週6日実施し、それに加え、介入群にはTKA術後版PCSTを実施した。TKA術後版PCSTは、事前に作成した印刷物を使用し、理学療法士が「TKA術後についての情報提示(5項目)」や「痛みに対する自己管理方法(6項目)」、「認知行動療法の実践(4項目)」の説明を行うとともに、対象者には「入院日記」を記入させ、入院期間の経過を辿ることで、術後の不安、歪んだ考えを取り除く内容となっている。1日5分程度、術後理学療法介入中に週6日実施する。
統計解析は、介入効果を分析するために、一般線形モデルを使用した(従属変数:各々の測定項目における介入前後の変化量、独立変数:介入の有無、共変量:年齢、性別、ベースライン時の値)。
【結果】
対象は、介入群41名(平均年齢71.9±5.3)、対照群41名(平均年齢73.1±5.9)となった。一般線形モデルで有意な項目はPCSとNRSであった(p < 0.001)。術前後のPCS変化量は、介入群が17.6±8.8、対照群が9.7±8.6で群間差は7.9±1.9、共変量を調整した群間差は6.0±1.5(95%CI:2.9-9.1)であった。術前後のNRS変化量は、介入群が5.5±2.2、対照群が4.2±2.2で群間差は1.3±0.5、共変量を調整した群間差は0.9±0.2(95%CI:0.4-1.4)であった。PCS、NRS共に介入群の方が改善した。
【結論】
TKA術後版PCSTは身体的機能には効果はみられなかったが、PCS、NRSには効果があることが示唆された。本研究の結果から、TKA後患者の痛みに対する破局的思考と疼痛には、TKA術後版PCSTが有益であることが示唆される。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は医療法人社団苑田会倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には研究・発表に対する説明を行い,同意を得た。