理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1-P-B-2-1
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ポスター演題
産後に腰痛・骨盤部痛を呈した3症例に対する腹直筋離開の評価と取り組み
猿田 奈央中村 格子
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キーワード: 腹直筋離開, 産後女性, 白線
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抄録

【はじめに、目的】腹直筋離開(Diastasis Rectus Abdominis: 以下DRA)は白線の離開とともに白線の機能障害を呈するものと定義され、妊娠35週で100%、産後6か月で35-39%が有すると報告されている。これは体幹の機能不全やそれに伴う様々な症状の原因となると考えられるが、欧米と比較し本邦では取り組みの報告は極めて少ない。今回われわれは妊娠出産を契機に腰痛や骨盤帯痛を発症し当院を受診した患者のDRAを評価し、背景や症状の異なる3症例を対象に症状変化との関係を検討したので報告する。

【方法】対象は出産後半年以内に疼痛等の症状があり当院を受診した3症例とした。調査項目は、初診時と運動療法3回終了後のNumerical Rating Scale (以下NRS)、腹直筋間距離(Inter Recti Distance: 以下IRD)、ショートカールアップ(以下SCU)時の白線の張力の3項目とした。症例1は39歳、出産回数2回(帝王切開2回、2回目は双生児)、主訴は腰痛、恥骨部痛、臍周囲の違和感、30分以上の歩行不可であった。症例2は32歳、出産回数2回(経膣分娩2回)、主訴は臍周囲の違和感、臍の突出、恥骨部痛であった。症例3は30歳、出産回数2回(経膣分娩2回)、主訴は腰痛、尿漏れであった。NRSは疼痛評価として痛みなしを0、耐え難く考えうる最も強い痛みを10とし、11段階で評価した。IRDは超音波診断装置(HITACHI, Noblus)を用いて測定した。プローブはリニアプローブEUP-L64を使用し、記録部位は臍上3㎝(以下AU)と臍下2㎝(以下BU)の二か所とし、描出から計測まで検者一名で実施した。SCUは膝を屈曲した背臥位で「顎を引きながら頭を持ち上げてください」という口頭指示の際に白線の張力を触診し4段階(十分に有り3、有り2、少ないが有り1、無し0)で評価した。

【結果】症例1は、NRS5→2、IRDがAU50.01→30.7㎜、BU57.0㎜→37.3㎜、SCUの白線張力が1→2であった。症例2は、NRS3→0、IRDがAU25.4㎜→21.2㎜、BU17.8㎜→17.1㎜、SCUの白線張力が1→3であった。症例3は、NRS4→3、IRDがAU13.3㎜→13.4㎜、BU9.3㎜→7.6㎜、SCUの白線張力が2→3であった。

【結論】IRDの正常値はAUで13mm±7、BUで8mm±6と報告されている。産後にIRDが大きく白線の離開がある症例は臍周囲や腹部に何らかの症状を訴えることが示唆された。初回測定時にIRDの大きかった症例ほど、二回目に減少量も多かった。SCU課題では全ての腹筋群の協調的な収縮が必要とされ、白線の解剖学的構造からこれにより白線の機能評価を試みたが、客観性の乏しさは否めない。3症例ともIRDの減少量、DRAの残存にかかわらず、運動療法介入によりNRSとSCU、尿漏れや歩行能力等その他の症状は改善した。今後は、白線の離開と機能、双方の客観的評価の確立、そして体幹機能として白線を含む腹壁と横隔膜、骨盤底、背筋群との関連性を明らかにすることが課題である。

【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の承認を得て、また患者にはヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて意義、方法、不利益等について説明し同意を得て実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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