理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O15-4
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口述
立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスは股関節間力を反映する指標か?
稲井 卓真高林 知也江玉 睦明徳永 由太久保 雅義
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抄録

【はじめに,目的】

 変形性股関節症は代表的な整形外科疾患であり,関節に生じる“力”が関節軟骨の細胞死の原因だと報告されている(Lucchinetti et al., 2002)。すなわち,股関節間力(股関節に生じる直接的な力)が低減された動作を解明することは変形性股関節症の進行を遅延させるために重要である。一方,近年の前向き研究(Tateuchi et al., 2017)によれば,股関節累積負荷(立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスと1日の歩数の積)が変形性股関節症のリスクファクターであると報告されている。しかし,この股関節内・外転モーメントインパルスは“回転力の力積”を示しており,股関節間力との関係性はわかっていない。仮にこれらの間に正の相関関係があれば,股関節内・外転モーメントインパルスが股関節間力を部分的に反映する指標である可能性が示唆される。そこで本研究は,立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスと股関節間力との関係性を明らかにすることを目的とした。

【方法】

 対象者は健常成人30名とした。すべての被験者は自由歩行をし,成功試行が3トライアルずつ得られた。Newton-Euler法を用いて股関節内・外転モーメントインパルスを計算した。Carboneら(2015)が報告した筋の起始・停止・中間点,至適筋線維長,至適腱長,生理学的筋横断面積,wrapping surfaceのパラメータを用いて3次元筋骨格モデルを作成し,さらにHill modelに基づき32筋をモデル化した。先行研究から長さ-張力曲線,速度-張力曲線を作成した。静的最適化手法を用いて筋張力を推定し,股関節間力(股関節間力ベクトルのノルム)を計算した。なお,筋トルクが関節モーメントを満たせない場合は,reserve actuatorsを作動させた。股関節内・外転モーメントインパルスと,股関節間力のインパルス・1stピーク・2ndピークそれぞれの間の相関関係を検討した。歩行解析はScilab,統計解析はRによって処理された。

【結果】

 立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスと股関節間力インパルスの間に正の相関関係がみられた(r = 0.64, p < 0.001)。立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスと股関節間力1stピークの間に正の相関関係がみられた(r = 0.41p = 0.026)。股関節内・外転モーメントインパルスは,股関節間力2ndピークとの間に有意な相関関係はみられなかった。

【考察】

 本研究の結果より,立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスは股関節間力の2ndピークを反映しないが,股関節間力のインパルスと1stピークを反映する指標である可能性が示唆された。

【結論】

 立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスは,股関節間力インパルスと1stピークを反映する指標になりうる。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,新潟医療福祉大学倫理委員会の承認が得られている(承認番号:17840-170711)。すべての被験者に対して,事前に研究の目的,方法,研究への参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護について十分な説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た。

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© 2019 日本理学療法士協会
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