理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O15-5
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口述
筋の至適長から考える歩行時、下肢振出し力源の解明
野原 太樹国分 貴徳小林 章喜多 俊介庄野 仁美金村 尚彦
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抄録

【はじめに、目的】ヒトの骨格には張力を発揮する筋が付着し、筋の張力を規定する因子として筋線維長や羽状角などの筋の形態的特性が挙げられる。筋張力にモーメントアームを乗じることで関節トルクが生じ、歩行などの運動が結果として観察されるが、動作時の筋長の実測は難しく、歩行の力源を筋の長さ変化に着目した報告は少ない。

一方、工学分野ではシミュレーション技術が発展し、筋の生理学的なデータを用いることで実験計測では困難なデータの取得が可能である。本研究の目的はシミュレーション解析による筋活動量と長さ変化に着目し、歩行時の下肢振出し力源を解明することとした。

【方法】対象は健常成人 5名。三次元動作解析装置(VICON 社製,100 Hz)と床反力付きトレッドミル(Bertec、1000Hz)、Plug in Gait Full Body AIに従い、39個の赤外線反射マーカーを用いた。筋活動測定には表面筋電図(DELSYS社製,1000Hz)を使用し、大腿筋膜張筋、中殿筋、大殿筋、大腿直筋、内側広筋、大腿二頭筋長頭、前脛骨筋、内側腓腹筋、ヒラメ筋に貼付した。課題は至適歩行速度30秒、その後各筋の最大筋活動量をMMT(Manual muscle testing)に準じて5秒間計測した。

運動学・運動力学データはVICON NEXUS2.3にて算出、またPythonを用いて、1歩行周期を時間正規化、4次バントパスフィルタ(20~480Hz)で波形処理を行った。またMMT最大値をとり、歩行筋活動を%MVCとして扱った。シミュレーション解析にはOpenSim3.3の23自由度92筋のモデルを用いた。マーカー情報から被験者のモデル作成し、計測した運動学データから動作の再現、筋の活動量の総和が最小となる計算を行った。

【結果】シミュレーションによる筋活動量は実測値を下回ったが、波形推移に大きな差はなかった。実測値、計算値ともにヒラメ筋が他筋と比較して高値を示した。立脚期後半、股関節、足関節の伸展運動時、腸骨筋の筋長は至適筋長を超え、ヒラメ筋は至適筋長に近づき、一定の長さを保持した。股関節、足関節パワーはともに関節角度が最大伸展した直後に増加した。

【考察】足関節背屈が最大となる相でヒラメ筋の長さ変化が小さいことから、アキレス腱の受動的伸張が考えられる。一方、腸骨筋は股関節伸展が最大となる相で至適筋長を超え筋活動は低値を示した。ヒラメ筋は長さ張力曲線における至適筋長を保ちながら背屈位をとることでアキレス腱の弾性エネルギーの利用、一方の腸骨筋は静止張力を発揮し、筋線維自体の弾性エネルギーの利用が示唆された。

【結論】ヒラメ筋と腸骨筋は異なる筋長の変化、筋活動量を示した。しかし、ともに関節が伸展することで筋や腱が持つ弾性エネルギーを蓄え、その後の振出しにおける関節パワー発揮への貢献が推察された。この弾性エネルギーによる力源は、伸展可動域があることで十分発揮される能力である。そのため本研究は下肢振出し動作における可動域獲得の重要性を示すデータの提案になると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り、埼玉県立大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号28876).被験者には事前に実験に関する説明を行い,同意書への署名を得た.同意書は筆頭演者所属機関内に鍵付きの保管庫を用意し,他者が解錠することの無いよう厳重に保管した.測定データは匿名化し取り扱い,インターネットに接続しないパーソナルコンピュータに保管,更にログインに際しパスワードを入力するように設定した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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