主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】予測的姿勢調節 (APAs) の発達が,立位・歩行の獲得に重要である (Fits et al., 1999). APAsは,皮質下領域が関与する. 補足運動野 (SMA) は,APAsの潜時の調節に関与し,SMAの障害によりAPAsの持続時間が短縮する (Jacobs et al., 2009).一方,小脳の障害は,APAsの振幅および筋活動パターンの調節を阻害する (Richard et al., 2017).APAsの足圧中心 (COP) の偏移量は,10歳までに成熟するが (Hay and Redon, 1999),潜時は10歳でも成熟しないことが示唆されている (Palluel et al., 2008).ゆえに,APAsの潜時と振幅の調節は,発達過程が異なることが示唆される.APAsの目的は,体重心 (COM) の加速度を産生することであるため,COMとCOPの位置関係 (COP-COM間距離) から分析することが重要である.本研究の目的は,片脚立位動作時のAPAsの潜時と振幅の調節の発達過程を明らかにすることであった.
【方法】3-10歳の48名の定型発達児と11名の健常若年成人 (23.3±2.7歳) を対象とした.48名の児は,2歳毎に4群に区分した (3-4歳群:11名,5-6歳群:15名,7-8歳群:12名,9-10歳群:10名).足幅を両上前腸骨棘間距離,上肢を体側に下垂した両脚立位を初期姿勢とした.対象者は,3秒以上の両脚立位の後,片脚立位を開始した.3回実施した.三次元動作解析システムと2枚の床反力計を同期させ,COMとCOPを算出した.APAsの開始のタイミング (APAonset) は,COPが安静時から2倍の標準偏差を超えて遊脚側へ偏移した時点とした.APAsの終了 (T1) は,COPがCOMを支持脚側へ追い越した時点とし,APAonsetからT1までをAPAs相とした.COP-COM間距離を両上前腸骨棘間で正規化し (%ASIS),APAs相の力積 [%ASIS*秒] と単位時間あたりの力積を算出した.群間比較に一元配置分散分析を使用し,多重比較にはTukey法を用いた.危険率は5%とした.
【結果】APAonset,力積,および単位時間あたりの力積いずれも群間の有意差が認められた.APAonsetは,小児の全群において成人群よりも有意に遅かった (p < 0.05).力積は,7-8歳群が,3-4歳群よりも有意に大きかった (p < 0.05).7-8歳群,9-10歳群,成人群との間には有意差は認められなかった.単位時間あたりの力積は,7-8歳群が,3-4歳群と成人群よりも有意に大きかった (p < 0.05).
【考察】APAsの潜時の調節は,振幅の調節よりも遅いことが示された.これは,16歳でもSMAや基底核が未成熟であることに起因していることが示唆される (Sowell et al., 1999).7-8歳群は,COMの加速度を成人同等に高めるために,APAsの潜時の短縮に対し,大きなCOP-COM間距離を産生していることが示唆される.APAsを評価するためには,「予測的時間調節」と「予測的筋出力調節」の観点から両方とも分析することが重要となる.
【結論】APAsの潜時と振幅の調節の発達は異なる.片脚立位動作時のAPAsによる振幅の調節は8歳までに成熟する.一方,APAsの潜時の調節は10歳でも成人同等の調節が獲得されていない.
【倫理的配慮,説明と同意】研究に参加した全ての対象者,および対象者の親に研究目的及び手順について十分に説明し,インフォームドコンセントおよびインフォームドアセントを得てから,書面にて同意を得た.実験で得られたデータは研究活動のみで使用し,学会や論文発表などにおいて公表する場合には,個人を特定できないように対処しプライバシー保護に配慮する.本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得ている (17-11-1, 28-2-52).