理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O7-1
会議情報

口述
予測的姿勢調節の潜時と振幅の発達過程は異なる
~体重心と足圧中心を用いた分析~
萬井 太規宮城島 沙織小塚 直樹種田 健二井上 貴博武田 賢太浅賀 忠義
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】予測的姿勢調節 (APAs) の発達が,立位・歩行の獲得に重要である (Fits et al., 1999). APAsは,皮質下領域が関与する. 補足運動野 (SMA) は,APAsの潜時の調節に関与し,SMAの障害によりAPAsの持続時間が短縮する (Jacobs et al., 2009).一方,小脳の障害は,APAsの振幅および筋活動パターンの調節を阻害する (Richard et al., 2017).APAsの足圧中心 (COP) の偏移量は,10歳までに成熟するが (Hay and Redon, 1999),潜時は10歳でも成熟しないことが示唆されている (Palluel et al., 2008).ゆえに,APAsの潜時と振幅の調節は,発達過程が異なることが示唆される.APAsの目的は,体重心 (COM) の加速度を産生することであるため,COMとCOPの位置関係 (COP-COM間距離) から分析することが重要である.本研究の目的は,片脚立位動作時のAPAsの潜時と振幅の調節の発達過程を明らかにすることであった.

【方法】3-10歳の48名の定型発達児と11名の健常若年成人 (23.3±2.7歳) を対象とした.48名の児は,2歳毎に4群に区分した (3-4歳群:11名,5-6歳群:15名,7-8歳群:12名,9-10歳群:10名).足幅を両上前腸骨棘間距離,上肢を体側に下垂した両脚立位を初期姿勢とした.対象者は,3秒以上の両脚立位の後,片脚立位を開始した.3回実施した.三次元動作解析システムと2枚の床反力計を同期させ,COMとCOPを算出した.APAsの開始のタイミング (APAonset) は,COPが安静時から2倍の標準偏差を超えて遊脚側へ偏移した時点とした.APAsの終了 (T1) は,COPがCOMを支持脚側へ追い越した時点とし,APAonsetからT1までをAPAs相とした.COP-COM間距離を両上前腸骨棘間で正規化し (%ASIS),APAs相の力積 [%ASIS*秒] と単位時間あたりの力積を算出した.群間比較に一元配置分散分析を使用し,多重比較にはTukey法を用いた.危険率は5%とした.

【結果】APAonset,力積,および単位時間あたりの力積いずれも群間の有意差が認められた.APAonsetは,小児の全群において成人群よりも有意に遅かった (p < 0.05).力積は,7-8歳群が,3-4歳群よりも有意に大きかった (p < 0.05).7-8歳群,9-10歳群,成人群との間には有意差は認められなかった.単位時間あたりの力積は,7-8歳群が,3-4歳群と成人群よりも有意に大きかった (p < 0.05).

【考察】APAsの潜時の調節は,振幅の調節よりも遅いことが示された.これは,16歳でもSMAや基底核が未成熟であることに起因していることが示唆される (Sowell et al., 1999).7-8歳群は,COMの加速度を成人同等に高めるために,APAsの潜時の短縮に対し,大きなCOP-COM間距離を産生していることが示唆される.APAsを評価するためには,「予測的時間調節」と「予測的筋出力調節」の観点から両方とも分析することが重要となる.

【結論】APAsの潜時と振幅の調節の発達は異なる.片脚立位動作時のAPAsによる振幅の調節は8歳までに成熟する.一方,APAsの潜時の調節は10歳でも成人同等の調節が獲得されていない.

【倫理的配慮,説明と同意】研究に参加した全ての対象者,および対象者の親に研究目的及び手順について十分に説明し,インフォームドコンセントおよびインフォームドアセントを得てから,書面にて同意を得た.実験で得られたデータは研究活動のみで使用し,学会や論文発表などにおいて公表する場合には,個人を特定できないように対処しプライバシー保護に配慮する.本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得ている (17-11-1, 28-2-52).

著者関連情報
© 2019 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top