主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに,目的】
全身筋量は身体機能や栄養状態を反映する指標として重要視されている.近年,Bioelectrical Impedance Analysis法 (BIA法)がその精度や簡便さから臨床の場で広く用いられている.しかしながら,高度浮腫やペースメーカー挿入者などのBIA法が困難な例では周径や指輪っかテストなどが代替法となり,詳細な身体組成が把握できない.一方,超音波画像診断装置(US)を用いた筋厚評価も筋量の推測に有効であるが,複数筋を測定するには熟練が必要かつ測定に時間を要する.これまでに,BIA法による全身筋量とUSの単一筋厚との関連を検討した報告は多くない.本研究の目的は,BIA法による全身筋量と,USによる単一筋厚がどの程度関連するか明らかにすることである.
【方法】
対象は健常若年者36名(男性28名,女性8名,平均年齢20.7±2.9歳)とした.BIA法での筋量評価はInBody 470(インボディ・ジャパン社製)を,USでの筋厚評価はMySono u6(サムスン電子社製)を用いた.全身筋量の指標には,四肢筋量から骨格筋指数(Skeletal Muscle Mass Index:以下,SMI)を算出した.筋厚は短軸像にて左右腓腹筋厚と腹直筋厚の2部位の筋厚を測定した.各部位2回ずつ測定し,測定部位の選択部位は,下腿は指輪っかテスト,腹部は腹囲など体組成の簡便な推測指標に用いられていることから選択した.さらに全身筋力の指標として左右の握力を測定した.統計解析にはPearsonの積率相関係数を用い,SMI,左右腓腹筋厚,腹直筋厚,握力の関連性を検討した.有意水準はいずれも5%未満とした.
【結果】
SMIと筋厚では,SMIと右腓腹筋厚(r=0.64),左腓腹筋厚(r=0.51),腹直筋厚(r=0.66)との間に有意な正の相関を認めた(p<0.05).SMIおよび各筋厚と握力では,SMIと握力(r=0.72),腹直筋厚と握力(r=0.64)との間に有意な正の相関を認めた(p<0.05).腓腹筋厚と握力との間には有意な相関を認めなかった(p>0.05).
【考察】
先行研究では,筋厚から全身筋量を推測するには複数筋の筋厚測定が必要とされる.今回,いずれの単一筋厚も全身筋量との間に関連を認め,SMIや腹直筋厚は握力とも関連を認めた.BIA法の代替法として用いられてきた指輪っかテストや腹囲では,水分や脂肪を介すため,実測値から筋なのか,脂肪なのか,水分なのか詳細な把握は困難である.USは筋を直接測定可能なことから,より正確な把握が可能なため,BIA法の代替手法として身体機能や栄養状態の推測に有用ではないかと考えられた.
【結論】
本研究より,超音波による単一筋厚を測定することで全身筋量を推測する可能性が示唆された.しかしながら本研究ではBIA困難者での測定を行っていないこと,超音波測定の部位を限局したため他の筋での検証が求められることなど,さらなる検討が必要と考えられる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は岐阜保健短期大学(承認番号:H29-04)および中部学院大学(承認番号:D17-0008)の倫理委員会から承認を得た.そのうえでヘルシンキ宣言に沿って,全ての対象者に本研究の目的,方法,測定リスクおよびその対策,個人が特定される情報は開示しないことなどを十分説明し,自由意志にて書面での同意を得た.