主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに,目的】日常生活動作は最大筋力を発揮することは少なく,最大下で筋出力が調整されることにより達成されている。近年,一定の筋力を安定して発揮する機能を示す,筋力発揮安定性(Force steadiness)が加齢や転倒,運動機能に関連する指標として注目されている。パーキンソン病患者は動作の緩慢さや関節の硬さが特徴的であり,運動中の筋活動の時間や出力を課題に適合させることが困難であるとされている。このことから,パーキンソン病患者は筋力安定性が阻害されている可能性が考えられる。本研究はパーキンソン病患者における筋力安定性と症状および運動機能との関連を調べることを目的とした。
【方法】対象は地域在住パーキンソン病患者23名(男/女:11/12,年齢:72.0±8.5歳)とした。MDS-UPDRSⅢ,Hoehn&Yahr重症度分類(以下H&Y),Timed Up & Go test(以下TUG),最大等尺性膝伸展筋力および膝伸展筋力安定性を測定した。最大筋力と筋力安定性には等尺性膝伸展筋力計(竹井機器工業社製)を用い,症状の重度な側を膝関節70度屈曲位で測定した。筋力安定性の目標値は最大筋力の10%および50%とした。ディスプレイの時間ー力グラフに目標値となるラインを表示し,対象者にはディスプレイを見ながら発揮筋力が目標値になるべく一致するように指示した。計測時間は8秒間とし,それぞれの目標値で2回ずつ計測した。得られた筋力データはサンプリング周波数1000Hzでパソコンに取り込み,計測開始から3000msまでを除いた3001~8000msの区間の筋力値の変動係数(標準偏差/平均値×100,%)を算出し筋力安定性の指標として用いた。最大筋力は2回の最大値(Nm),筋力安定性は2回の平均値を解析に用いた。統計解析として,筋力安定性と年齢,最大筋力との関連性をピアソンの相関係数で調べた。次に,従属変数をMDS-UPDRSとTUG,独立変数を各筋力安定性,年齢および性別とした重回帰分析を実施した。さらに,対象者をH&Yで軽度群・重度群の2群に分け,年齢と性別で調整した共分散分析を用いて筋力安定性を比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】筋力安定性は10%,50%とも年齢と正の相関を示したが,最大筋力およびTUGとは相関せず,また10%と50%との間での相関も示さなかった重回帰分析の結果,MDS-UPDRSには10%筋力安定性が有意に関連したが(β=0.46,p<0.05),50%筋力安定性は関連しなかった。また,TUGには筋力安定性は10%,50%とも関連していなかった。共分散分析の結果,重症度による筋力安定性の差は10%筋力安定性において,軽度群(5.76%)と比較し重度群(35.3%)で悪化する傾向にあった(p=0.07)。
【結論】本研究の結果,低い目標値での筋力安定性はパーキンソン症状と関連し,病期が進行するほど悪化することが示唆された。一方,パーキンソン病患者における筋力安定性は運動機能にはあまり影響しない可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,姫路中央病院倫理審査委員会の承認を得て実施した。また,すべての被験者に本研究の趣旨および内容について口頭および文書で説明し,自由意思による参加の同意を書面により得た。