理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O19-2
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口述
地域在住高齢者を対象にした歩行障害の検査について
宮下 敏紀工藤 慎太郎
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抄録

【はじめに、目的】ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)予防には歩行障害に対する対策が重要であると言われている (Nakamura K. 2012).高齢者は歩行中における立脚後期に足関節パワーの減少を認めている(Judge JO, et al.1990).このことから足関節パワーの低下は歩行障害になるリスクがあると考えられた.しかし,歩行中の運動力学分析は三次元動作解析装置による計測が必要であり,計測は容易でない.そこで我々は可搬性の高い加速度計を腓骨頭に装着し,立脚後期の下腿加速度を分析することで足関節パワーを推定する方法を確立した.本研究の目的は,地域在住健常高齢者を対象に加速度計を使用した方法で足関節パワー推定値(以下,足関節パワー)を算出し,足関節パワーを非ロコモ群とロコモ群で比較検討することである.

【方法】対象者は地域在住高齢者30名より,全ての検査測定が可能であった女性28名,年齢74.8±6.9歳とした.ロコモテストは2ステップ値(2ステップテストで測定した最大二歩幅を対象者の身長で除した値)の算出と立ち上がりテストを実施した.2ステップ値1.3以上,かつ片脚40㎝より起立可能であった者を非ロコモ群,それ以外はロコモ群とした.他に握力,快適歩行による歩行速度,加速度計を使用した加速度波形より足関節パワーを求めた.統計学的分析は非ロコモ群とロコモ群間における各変数の比較を対応の無いt検定を実施した.また,足関節パワーと各変数の関連をスピアマンの相関係数で求めた.統計学的有意水準は5%とした.

【結果】非ロコモ群は13名,ロコモ群は15名であった.非ロコモ群とロコモ群の比較検討において,年齢は70.1±2.4歳と78.9±7.0歳でロコモ群が有意に高かった(p<0.01).2ステップ値は1.4±0.1と1.1±0.2,握力は26.9±3.8㎏と20.9±4.2㎏,歩行速度は1.4±0.1m/sと1.1±0.2m/sであり,それぞれ非ロコモ群が有意に高かった(p<0.01).足関節パワーは非ロコモ群3.3±0.7Wとロコモ群2.6±1.1Wであり,有意差は認めなかった(p=0.06).相関関係の結果より足関節パワーと有意差を認めた項目は,体重(r=0.62,p<0.01),握力(r=0.48,p<0.01),歩行速度(r=0.48,p<0.01)にそれぞれ中等度の正の相関関係を示した.

【考察】今回,非ロコモ群とロコモ群に分類して比較検討を行った.ロコモ群の年齢が有意に高かったものの,歩行中に生じる足関節パワーに有意差は認めなかった.つまりロコモの有無に関わらず70歳代になると足関節パワーは低下しており,歩行障害のリスクを有する状態であると考えられた. また足関節パワーは,握力と歩行速度との間にそれぞれ中等度の相関関係を示した.このことから歩行中における足関節パワーの計測はロコモ状態を抽出するにあたり,外的妥当性がある検査であると言える.

【結論】70歳代の非ロコモ群とロコモ群との間に足関節パワーに差は無かった.足関節パワーはロコモ状態の指標になり得る可能性がある.

【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,所属機関の倫理審査委員会(受付番号2018-009) の承認を得て実施した. 対象者には対象者の権利と研究の目的を説明し同意を得た.

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© 2019 日本理学療法士協会
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